あえて「清澄白河」を1号店に選んだブルーボトルコーヒー
東京・清澄白河に、“サードウェーブ”系コーヒー店の真打ち、「ブルーボトルコーヒー」の日本1号店がオープンしたのは、まだ記憶に新しい。
サードウェーブとは、その名の通り、コーヒー界における第三の波。ファーストウェーブがかつてのアメリカンコーヒーで、セカンドウェーブがスターバックスに代表されるシアトル系のコーヒー。サードウェーブとは、豆の産地から挽き方や淹れ方、果ては器具までこだわり抜いた、いわば究極のコーヒーをそう呼ぶらしい。
ブルーボトルコーヒーは、まさにその真打ち。2002年にジェームス・フリーマン氏が米国カリフォルニア州オークランドの自宅ガレージで創業したその店は、“コーヒー界のアップル”と呼ばれ、グーグル・ベンチャーズやツイッターの創業者も出資するなど急成長。今やサンフランシスコやニューヨーク、ロサンゼルスなど全米各地に店舗を構え、東京は海外初出店になる。
さて、そんなブルーボトルコーヒーに僕らがまず驚いたのは、日本1号店に「清澄白河」の地を選んだこと。かのエリアは、東京都現代美術館や清澄庭園、芭蕉記念館などがあり、文化的な香りはするものの、いわゆる商業地ではない。休日はともかく、平日の人通りは期待できるものではない。
創設者のジェームス・フリーマン氏はその理由をこう述べている。
「日本初上陸の場所としてはユニークに映るかもしれないが、生産拠点として最高の場所。ゆったりとした空気が漂っていて、地元の人達の日々の営みの場でもある」
生産拠点–確かに、ブルーボトルコーヒーはアメリカの主要店舗を見れば分かるが、カフェの隣にロースタリー(焙煎所)を併設するのが定番である。かの店の売りは、フェアトレードの豆を自家焙煎して、48時間以内に提供すること。つまり、カフェであると同時に、コーヒー豆の発信基地でもある。
それに近年、清澄白河は、「The Cream of the Crop Coffee」や「アライズ コーヒー ロースターズ」、「東京ロースタリー&カフェ」など、サードウェーブ系のカフェが集積する一種のコーヒータウンの様相を見せる。その真打ちが、そんな“聖地”を選んだのは分からぬ話ではない。
とはいえ、オープンから一ヶ月後には南青山に2号店がオープンし、更に4月には代官山にも店を構える。やはり、本音は都心で商売するつもりなのだ。それなのに、なぜ1号店だけ清澄白河を選んだのか–。
そう、これも逆張り。
あえて都心を避けることで、話題性が生まれるし、既存のコーヒーチェーンとは違う、ある種の“思想”を感じる。
客の側からすると、わざわざ遠征して店を訪れることで、一種のイベント感も味わえる。
実際、清澄白河の1号店は、オープン前から各種メディアやネットで話題となり、2月6日の開店日はコーヒー好きの多くの客が訪れ、2時間半待ちの大行列となった。今も、週末になる度に同様の混み具合を見せる。
これが、青山や代官山を1号店に選んでいたら、ここまで話題にはならなかっただろう。現に週末に限っては、今も青山店のほうが待ち時間が少なく、入りやすいくらいだ。
そう、日本進出で既存のコーヒーチェーンとは違う立ち位置をアピールしたかったブルーボトルコーヒーの“逆張り”戦略は、まんまと人々の背中を押したのである。
イラスト 高田真弓
これ何で買ったんだろ?がスルスル分かる本『買う5秒前』(草場滋著)はこちら