日本で「売り方のイノベーション」を実施するための組織と商談の工夫とは?

【前回のコラム】「メーカーと小売業がWin-Winの関係で売り方のイノベーションに取り組むには?」に変革した売り方のイノベーション」はこちら

リテール3.0という考え方とショッパー・ベース・デザイン

今回は、北米では多くのメーカーと小売業が取り組んでいる、ショッパー・ベース・デザインによる「売り方のイノベーション」を、日本で実施するために必要なことを考えます。しかしその前に、ショッパー・ベース・デザインに取り組まなかったらどうなるかを考えてみます。

上の図は、リテール1.0からリテール3.0までの流れとそれぞれの考え方をまとめたものです。サプライチェーン上で最も「力」をもっているのが誰なのか?という視点で、近現代のリテールを捉えています。

大量生産の時代が幕を開けてから、サプライチェーンで最初に「大きな力」を持ったのはメーカー・製造業でした。モノを生産しなければ、当然物流は起こりませんし、メーカーがモノを出荷しなければ、小売業は「売るモノ」がなく、買う側・消費者に商品が届きません。メーカーはモノの価格決定権を持ち、業種によっては流通を支配することになります。

このように、メーカーがサプライチェーン上で最も「力」を持っていた時代を「リテール1.0」と呼びます。全国規模のマス・マーケティングによって、出荷された「モノ」はメーカーが決めた価格で買われていきました。

これに対し、POSレジの普及一般化と小売業の大規模化によって、パワーシフトが起こりリテール2.0時代に突入します。

いつ・何が・どこで・いくらで売れたのかというPOSデータは、実際に「モノが売れた価格」という情報を小売業に独占させることで、売れない価格ではモノを仕入れない、という時代を到来させました。あわせて小売業の大規模化は、「大量仕入」というメーカーに対する交渉力をもたらし、メーカーに代わって小売業が大きな力を持つことになったのです。

では、現在はこのリテール2.0の時代なのでしょうか?

実は、今まさに、新たなパワーシフトが起こっていると分析されています。買う側がウェブサイトを通して商品情報を自由に検索でき、価格を比較し、最も有利な条件でモノを買うことが当たり前になってきました。リテール2.0時代は、小売業が売りたくないものは、ショッパーは買うことはできませんでしたが、現在はショッパーが買いたいモノが売っているところを探し、価格も小売業が売りたい価格ではなく、ショッパーが買いたい価格でモノが買われるようなってきています。つまり買う側であるショッパーに「価格決定権」が移ってきていると言い換えることができるのです。

このような、サプライチェーン上でショッパーが「大きな力」を持つ時代を「リテール3.0」と呼び、様々な事象によって「リテール3.0」への流れが確認され始めています。

売れ筋商品が多様化したことでロングテールのビジネスモデルが登場したり、SNSの普及一般化で、商品情報が買う側だけで語られるようになったりしていることや、価格比較サイトの利用などはすでに小売業からショッパーにパワーシフトが起こっている証左といえるのです。

次ページ 「ショッパー・ベース・デザインへの取り組みは早ければ早い方が良い」へ続く

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藤枝テッド和己/中井侑絵(チェースデザイン)
藤枝テッド和己/中井侑絵(チェースデザイン)

藤枝 テッド 和己/(株)チェースデザイン マネージング・ディレクター
2002年よりマッキャンワールドグループの(株)モメンタム ジャパンに勤務。
モメンタム ワールドワイドの国際組織グローバル・ショッパーマーケティングエクセレンス・グループの中核メンバーとして、買物客(ショッパー)を中心においたマーケティングの開発に取り組み、JTインターナショナル、コカ・コーラ、マイクロソフトといった多国籍企業のショッパーマーケティングに携わる。現在は、2013年にモメンタム・ワールドワイドが買収した、北米のショッパーベースデザイン・コンサルティング会社チェースデザインの日本法人のマネージング・ディレクターに就任し、多くのクライアントに、売り場で購買行動を操作する「売り方のイノベーション」のコンサルティングを行っている。
宣伝会議では、セールスプロモーション講座やメディアプランニング講座等のセミナー講師を務め、先駆的なマーケティング理論やケーススタディを紹介している。

中井侑絵/(株)チェースデザイン シニアストラテジックプランナー
 (株)モメンタム ジャパンから、北米のショッパーベースデザイン・コンサルティング会社チェースデザインに派遣され、P&Gやスターバックスのショッパーベースデザイン・プロジェクトに参画。2014年、チェースデザインの日本法人の設立のメンバーの一人として、主にショッパー戦略の開発に従事し、クライアントに対して、ショッパーベースデザインを日本のマーケットで実践するための、様々な提案を行っている。

藤枝テッド和己/中井侑絵(チェースデザイン)

藤枝 テッド 和己/(株)チェースデザイン マネージング・ディレクター
2002年よりマッキャンワールドグループの(株)モメンタム ジャパンに勤務。
モメンタム ワールドワイドの国際組織グローバル・ショッパーマーケティングエクセレンス・グループの中核メンバーとして、買物客(ショッパー)を中心においたマーケティングの開発に取り組み、JTインターナショナル、コカ・コーラ、マイクロソフトといった多国籍企業のショッパーマーケティングに携わる。現在は、2013年にモメンタム・ワールドワイドが買収した、北米のショッパーベースデザイン・コンサルティング会社チェースデザインの日本法人のマネージング・ディレクターに就任し、多くのクライアントに、売り場で購買行動を操作する「売り方のイノベーション」のコンサルティングを行っている。
宣伝会議では、セールスプロモーション講座やメディアプランニング講座等のセミナー講師を務め、先駆的なマーケティング理論やケーススタディを紹介している。

中井侑絵/(株)チェースデザイン シニアストラテジックプランナー
 (株)モメンタム ジャパンから、北米のショッパーベースデザイン・コンサルティング会社チェースデザインに派遣され、P&Gやスターバックスのショッパーベースデザイン・プロジェクトに参画。2014年、チェースデザインの日本法人の設立のメンバーの一人として、主にショッパー戦略の開発に従事し、クライアントに対して、ショッパーベースデザインを日本のマーケットで実践するための、様々な提案を行っている。

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