ショッパーに対する、メーカーと小売業の共同作業
これまで、ショッパー・ベース・デザインに取り組まなければならない理由について述べてきました。では、日本でショッパー・ベース・デザインに取り組むには、何が必要なのでしょうか。確かに北米と日本のマーケットでは相違点がたくさんあります。商習慣・価値観・規模感……、ショッパー・ベース・デザインを実行しようにも、北米とは事情が違いすぎると感じることも多いと思います。
しかし大きな共通点もあります。それは「ショッパーが存在している」という事実と購買行動にはそれぞれ「インサイト」が隠れているという点です。ショッパー・ベース・デザインは、ショッパーのインサイトをベースに組み立てていくものなので、日本の隠れたショッパーのインサイト発見するというプロセス自体には、日米に大きな違いはありません
それよりも重要なのは、どこでどのように「売り方のイノベーション」を生み出すのかという点です。
製品のイノベーションは、メーカーの商品開発を担当する部署や研究所で生み出されます。これに対して「売り方のイノベーション」を生み出す研究所は日本のメーカーにはほぼ存在していません。欧米企業には、イノベーション・センターとかインサイト・センターという「売り方のイノベーション」を生み出す部署・設備を持っているメーカーがありますし、日本企業でもそのような組織を作りたいと、我々に相談するようなメーカーも出てきました。
では、日本のメーカーにおける「売り方のイノベーションを生み出す組織づくり」のために重要なこととは何でしょうか。それが「メーカーと小売業が一緒になって考える場を設ける」ことです。
ショッパーのインサイトの発掘というのは大変重要ですが、それを小売業との商談に活かさなければ意味がありません。そしてインサイトを盛り込んだショッパー・ベース・デザインの商談・提案は、メーカーからの一方的なものではなく、小売業との協働を前提とした共同作業である側面が強いものとなるはずです。したがって、カテゴリーの売り場そのものをどうしていきたいのか、互いの意見を聞きあって深めていく場面を設定しなければ話は前に進みません。
多くのメーカーは、自社商品が店舗の棚に並んだときの疑似売り場を社内に持っているはずです。例えば、そこに小売業の担当者を招いて、カテゴリー活性化について話し合うという機会を設ける、といったことがそれに当たるでしょう。
これまで、メーカーの流通との商談というと、小売業側にメーカーが出向き、その場で提案することばかりだったと思いますが、「一度我々のオフィスまで足を運んでいただき、売り場の棚を前にしながら一緒に考えませんか?」という提案をしてみる。つまり、「売り方のイノベーション」開発はメーカーと小売業の共同作業である、という意識づけや、共同作業の実行の場を設けることが重要なのです。
中には、「イノベーション・センター」という施設を設けるメーカーもあります。ここには、先ほどの疑似売り場はもちろん、「共同作業」をサポートできる機能として、プレゼンテーション・ルームを発展させたワークショップ・ルームを持たせることが多くなっており、そこには共同作業を意識できる様々なアイデアが盛り込まれています。
このように、流通業との日々の商談の在り方を、いかに「共同作業」を意識させられるように工夫するか、そこがメーカーにとって重要な点であると言えます。
この点については、2015年4月14日13時10分からの「Advertimes DAYS2015」の講演でも触れてみたいと思っています。
次回はこのコラムの最終回、これまでの内容をまとめつつ、デジタル化が加速するオムニチャネル時代の売り方のイノベーションの展望を書きたいと思います。