VODは入り口にたどり着いたにすぎない。dビデオのリニューアルから未来は見えるか?

【前回記事】「ネット動画は、もはや堂々たるエンタテイメントの場であり、最先端のブランディング手法でもある。」はこちら

コンテンツにお金を払う文化がないのはホント?

Netflixが秋に日本でサービスをはじめることがわかり、にわかにVODという分野にスポットが当たっています。この連載でも2月にとりあげました。

9月上陸決定?!Netflixは黒船なのか?日本のVODの進路がテレビの将来を左右するかもしれない。

今回は、さらにVODについて追求したいと思います。少し長いですが、ぜひじっくり読んでください。

Netflix上陸のニュースに、日本のサービスがどう受けて立つのか気になっていたところ、先日、4月2日にdビデオが発表会を開催しました。「MIKATA CONFERENCE」と題して大々的に今後の事業展開を説明する催しで、筆者は正直、Netflixに対抗すべく慌ててサービス拡充を決めたんだろうなと高を括って見に行ったのですが、そんな浅はかな見方をいい意味で裏切る驚くべき内容でした。

そもそも筆者がNetflix上陸に心を躍らせたのは、ひとりのユーザーとして便利なVODを待っていたからです。ところが、dビデオの発表は、ひと足お先に理想的なサービスをスタートさせる、と言える内容でした。これはワクワクしてしまいます。筆者は映画やドラマが大好きで、これまでさまざまなVODを使ってきました。日本のVODはそもそも、まだまだ発展途上で市場形成に至れる段階ではなかったと筆者は思っています。

ユーザーとしての経験を振り返ると、まずレンタルDVDの時代。筆者は毎週のようにTSUTAYAに通ったものです。面白そうな映画、映画館で見逃した作品がレンタルになるとさっそく借ります。そんなところへ、ハリウッド連ドラのブームが来ます。中でも『LOST』にはハマりました。

『LOST』には家族ぐるみで熱中しました。でも、あるシーズンのDVDがレンタルに出ると、週末にTSUTAYAに勇んで行っても、もう借りられています。ダメだったよーと帰宅し、子どもたちからガッカリされたものです。

そんな頃、AppleがiTunesで映画やドラマのレンタルをはじめました。そしてビデオiPodを売出した。2005年のことです。でもその時点では、日本では音楽のPVは買えても、映画やドラマは視聴できませんでした。アメリカのiTunes Storeには『LOST』も入っている。うらやましい!筆者がVODを切望したのはこの時です。

その後、日本独自のVODサービスも少しずつスタートしてきました。テレビメーカーが共同で起ち上げたアクトビラをはじめ、各CATVもVODサービスを開始。ひかりTVもオンデマンドサービスに取り組み、選択肢が徐々に増えてきました。

ただ2000年代後半の時点では、まず作品のラインナップが貧弱でした。映画はDVDが出てからずいぶん経たないとVODに出てこないし、VOD化されない作品のほうが多かった。テレビドラマも最新のものはほとんどない。まだネット配信に配給会社やテレビ局が二の足を踏んでいた時代です。

そして何より、操作しづらい。筆者は加入している某CATVがVODをはじめたのに大喜びしましたが、いざ使ってみると使いづらいのなんの。個々の作品情報がわかりにくいし、さくさく動かないのでイライラしてしまう。腹が立ってリモコンをテレビに投げつけそうになります。当時のテレビ向けVODは、はっきり言って使い物にならないと言っていいレベルでした。もちろん、技術的なハードルがいろいろあったのだと思いますが。

PC向けのVODサービスもあり、操作性は少しマシでした。でもPC向けサービスはオタクっぽい臭いがあり、実際コンテンツの中心はアニメでした。アニメ界はネット配信にいくぶん積極的だったし、過去作品がとても多く視聴されていたようです。でもやはりPCのVODは“特殊な世界”の雰囲気が漂っていました。

よく日本でVODが普及しないのは、コンテンツにお金を払う文化がないからだと言われます。でも一方で、レンタルビデオは多くの会員を抱えていますよね。文化の問題ではなく、レンタルビデオの代替としてのVODが技術的にも品揃え的にも未完成だったせいだと筆者は考えています。一般に普及するにはPCではなくテレビで、新作が普通に視聴できる使いやすいサービスが必要なのです。

次ページ 「自分が何を見たいかわからない問題」へ続く

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境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

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