ファンをパトロン化して、若者の背中を押したAKB
CDが売れなくなって久しい。
世界の音楽市場は、1999年をピークに右肩下がりである。
その要因は–ざっくり言えば、音楽が成熟市場になったからだと言われる。1960年代にビートルズが起こした“革命”は音楽市場に火を点け、70年代から80年代半ばにかけてカンブリア紀の大爆発のごとく、多種多様な音楽が世に放たれた。
それが、80年代後半から段々と売れ筋の音楽へと収束し、かつて市場を賑わせた巨大な中間ゾーンは希薄になり、気が付けば、「アナと雪の女王」などのメガヒットと、その他大勢の負け組とニッチという惨状に。そして市場は今日も縮小を続ける。
そんな中、アメリカに次いで世界第2位の音楽市場を持つ日本は、むしろマシなほうだと言われる。何せ、国民一人あたりの売上げで見れば、日本はダントツ1位。それを支えるのが、いまだ音楽市場の売上げの8割を占めるCDの存在である。この割合は、世界的に見ると極めて異例なのだ。
なぜなら、世界の音楽市場はデジタル化が進み、今やダウンロードとストリーミングが2本柱。CDで稼げないベテランミュージシャンたちは、もっぱらライブが主戦場である。御年72歳のポール・マッカートニーが世界ツアーを続けるのも、そういうこと。幸いにも、ライブ市場はかつてないほど盛り上がりを見せている。
この流れは日本も同じで、近年、野外フェスなどの大型ライブが活況を呈しているのは御承知の通り。実際、エイベックスは、今やCDやダウンロードの販売よりも、ライブや夏フェスの売上げのほうが上回るほど。
それにしても、千円のCDが売れない一方で、なぜ数千円から数万円もするライブが盛況なのか。それは–客のパトロン化である。
元々、音楽家にパトロンはつきものだった。モーツァルトやベートーヴェンの時代、彼らは貴族の支援なしでは生計を立てられなかった。いや、長い音楽の歴史を見れば、音楽家がレコードやCDなどのパッケージメディアを売って生計を立てられるようになったのは、たかだかこの半世紀に過ぎない。
そう、ライブに集うファンたちは、言うなればパトロンなのだ。そうやって「視点」を変えれば、数千円から数万円の出費はたいしたことがないように見える。
そして——そんなパトロン化の流れは、世界的に特異と見られる日本の音楽市場を盛り上げる要因にもなっている。
AKB48だ。
かのグループがCDに握手券を同封し、ファンたちがメンバーと何回も握手したいがために、同じCDを複数購入するのは周知の事実。それは「AKB商法」と言われ、一部に批判もある。
しかし、である。CDが売れない時代、ファンが同じCDを何枚も買うのは、握手会で直接、彼女たちに応援の言葉を贈りたいから。つまり–彼らはパトロンなのだ。一生懸命バイトで貯めたカネを惜しげもなくCDに注ぎ込むのは、自分の“推しメン”への投資なのだ。
何が彼らの背中を押した?
——「人間力」だ。
若い彼らの背中を押したのは、理屈どうこうじゃなく、この人のパトロンになって応援したいという純粋な思いからである。
音楽市場が成熟して、かつて活況を呈した巨大な中間ゾーンが空洞化しつつある今、ファンをパトロン化して、ライブや握手会でミュージシャンと直接触れ合う機会を作ることは、市場の流れを変える意味において、僕は有効な手段だと思う。
なぜなら万策尽きた時、結局、最後にお客の背中を押すのは人間の魅力——「人間力」だから。
イラスト 高田真弓
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