なぜ企業は新規顧客にばかり目が行くのか?――ファンとの関係を新しい顧客との出会いに生かす キリン×ニューバランス×フォルクスワーゲンの取り組み

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写真左からフォルクスワーゲン グループ ジャパン マーケティング本部マーケティングコミュニケーション担当部長 鶴 ゆみ氏、ニューバランス ジャパン マーケティング部 部長 鈴木健氏、キリン CSV本部 デジタルマーケティング室 デジタルマーケティング担当 ソーシャルメディアチーム 小川直樹氏、JAPAN CMO CLUB Founder 加藤 希尊氏。

2014年11月に発足された「JAPAN CMO CLUB」の研究会は3月6日の開催会で5回目を迎え、約4カ月で20名を超えるマーケターが参加する規模に成長した。第5回はキリン、フォルクスワーゲン グループ ジャパン、ニューバランス ジャパンの3社のトップマーケターが参加した。

「JAPAN CMO CLUB」では、日本のマーケターの集合知をつくること。そして、各社が自社の考えるカスタマージャーニーを発表しあうことで、業界の垣根を越えたクロスブランドの新しいコラボレーションを創出する場となることを目指している。今回も各社が考えるカスタマージャーニーを発表しあう中で、コラボレーションのアイデアも生まれてきた。

第5回研究会参加メンバー

  • キリン CSV本部 デジタルマーケティング室 デジタルマーケティング担当 ソーシャルメディアチーム 小川直樹氏
  • フォルクスワーゲン グループ ジャパン マーケティング本部マーケティングコミュニケーション担当部長 鶴 ゆみ氏
  • ニューバランス ジャパン マーケティング部 部長 鈴木健氏

重要な“瞬間”を知ると、ブランド価値の本質が見える

研究会は毎回「各社のブランドの顧客接点の中で、最も重要な瞬間は何か?」という問いかけから議論をスタートさせている。これはJAPAN CMO CLUB Founderである、加藤希尊(かとう・みこと)氏の「顧客との接点の中で、最も重要と考える“瞬間”にこそ、そのブランドのコアとなる要素が凝縮している」という、仮説があってのことだ。

加藤氏は「これまでの研究会を通じ、改めて企業が今、コモディティ化という課題に悩んでいることが分かったが、重要な瞬間の考察・発表を通じて、コモディティ化から脱却する自社ならではの強みに気付けるケースも多いと考えている」と説明した。

各参加者が発表した「重要な瞬間」は以下の通り。

小川直樹氏(キリン)

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お客様とブランドとの接点で一番重要な瞬間は?

スマートフォンでの接点。情報発信の起点となるので。

消費者にとっての情報接触媒体としてスマートフォンは、外せない存在。何かを調べたいときに、最初の情報の接点となるメディアだと考えている。

鶴 ゆみ氏(フォルクスワーゲン グループ ジャパン)

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お客様とブランドとの接点で一番重要な瞬間は?

「人」。

自動車の購買サイクルが約7年と長期化している中、接点同士に統一感とシナジーが必要とされている。それを生み出す最大の媒介が「人」であり、その意味で店頭ショールームでのお客様との接点が非常に重要な瞬間と言える。

加えて、ディーラーのスタッフだけでなく「実際のユーザー、オーナー」という「人」も、オーナー予備軍の方たちにとって重要な接点となっている。

フォルクスワーゲンは日本の輸入車市場において「15年連続販売数1位」であるにも関わらずブランドイメージが希薄であるという課題を抱えている。イメージが悪い、良い以前に「どんな方が選ぶ車なのか、イメージがわかない」と言われてしまう。

「ポロ」「ビートル」「ゴルフ」と車種は支持をされているが、フォルクスワーゲンというブランドではなかなか売れない状況がある。2018年に向けて、11万台販売達成を目指しているが、この数字は車種の訴求だけ、また新規を獲得していくだけでは達成しえない数であり、ブランドで選ばれる必要に迫られている。

エントリーモデルの車種から入っていただいたお客様が、ライフステージが変わった時にフォルクスワーゲンの中から車種を選んでいただけるようにしたい。

鈴木 健氏(ニューバランス ジャパン)

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お客様とブランドとの接点で一番重要な瞬間は?

マーケティング部で重視するのは、店頭に足を運んでいただく前のブランドを知るきっかけを発生させる「Media Experience = メディアとの接点」。

ただお客様の視点から考えると「Achieve/Service Experience(購入した後の商品の使用体験)」→「Shopping Experience(店頭での購入体験)」→「Media Experience(広告口コミなどを介したブランドの認知・理解の体験)」の順に重要なので、モノの機能性に使用シーンにおける“体験”を組み合わせた、ブランド全体での魅力的なサービスデザイン設計まで見据えたコミュニケーションが必要だと考えている。

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従来のマーケティングでは消費者は店頭に来て、商品を見て、そこでブランドを選択している。そこで店頭での商品との出会いの瞬間が大事として「First Moment of Truth(店頭で消費者が商品と出会う瞬間)」が重視されていた。しかし、オンラインでの能動的な情報収集行動が増えるにつれ、近年店頭に行く前の広告や口コミへの接触プロセス「Zero Moment of Truth」が重視されるようになってきた。この2つの体験に加えて、鈴木氏が考えるカスタマージャーニーには、購入した後、実際に商品を使用する体験(「Second Moment of Truth」)も加わっている。使用シーンにおける体験価値は、既存顧客の顧客ロイヤリティを高めることにつながるのはもちろん、そこでのユーザーの口コミが、新しい顧客の「Zero Moment of Truth」にも影響する。そこでこの3つの体験が、円滑に回り続けていることが重要と考えているという。

当社では4半期に一度、エージェンシーの関係者も含め40名ぐらいでワークショップを行い、商品ごとにカスタマージャーニーを作るプロセスを作っている。個別商品ごとに、そういうことを蓄積してきた経験から、大きく分けるとカスタマージャーニーはこういう風にまとめられるのではないかと作成したのが上の図。

店頭での接点(Shop Experience)も、商品を認知してもらう、理解してもらう(Media Experience)も当然大事だが、我々のようなスポーツブランドでは、「お客様にとっての最終目的」が大事であり、だからこそ実際の使用シーンでの体験(Usage/Service Experience)を重視している。

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研究会では、各社が考えるカスタマージャーニーが披露された。

次ページ 「必要なのはエンドユーザー目線の発信」に続く

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