今回も、「ケンミンの焼ビーフン」を例に話を進めます。
この商品のテレビCMでは、ほぼ30年間ずっと、「おいしい」という言葉を使っていません。
冒頭に書いたように、単純に「おいしい」と言っても簡単に信用してもらえないからですが、実は一度だけ「おいしい」という言葉が登場しました。それは1990年代につくった「大家族篇」の中で流れた歌で、以下のような歌詞です。
♪きょうのおかずはなんだろな~
わあ~やったね ケンミンだ~
ケンケンミンミン 焼ビーフン
たまに食べると おいしいよ~
毎日食べると ちょっと飽きる
「たまに食べる」とおいしい。それはウソも飾りもないほんとうのことで、毎日食べる食品ではない「焼ビーフン」の価値のひとつだと思います。さらに言えば、「飽きる」という言葉は、普通のCMではまず使われない言葉です。でも、たとえフグや松茸やキャビアであっても、あるいはどんなに好きなものであっても、「毎日食べる」と絶対に飽きますよね。こちらも、ウソも飾りもないほんとうのことです。
商品を持ち上げず、他のCMとはちょっと違う描き方で、商品の価値をたのしく伝えられた例としてあげてみましたが、なるほどと思っていただけたでしょうか?
このCMは当時、話題になりました。「正直でよろしい」と、珍しくお褒めの投書もいただきました。「毎日食べてもおいしいよ~」などと安易なことを言わなかったから、共感してもらえたんだと思います。
ちなみに、土曜のお昼とかに、冷やしたビールをぐびっと飲みながら、豚肉少々と野菜をたっぷり入れたケンミンの焼ビーフンを食べるととてもおいしいです。ぜひ、いちどお試しください。
などという安易な宣伝はおいときまして、話を戻します。
今、考えると、あの頃に先輩たちが言っていた「商品をほめすぎるな」ということは、「商品から逃げたらあかん」、「肝心なところで、らくしたらあかん」、ということだったんじゃないかと思います。
ウソをつかずにすむように、飾らなくてすむように、商品から逃げず、商品の本質的なところと向き合う。そして、人と違う企画をつくる。口で言うのは簡単で、実践するのはなかなかにしんどいことではありますが、でも、そこが突破できたら、たくさんの拍手が待っていると思うんです。