「広報担当の葛藤を描いた」ドラマ『64』プロデューサーが語る制作秘話

「傍観者」である広報の葛藤

普通の刑事ドラマは主人公が犯人を見つけるかトリックを解くわけですが、広報官の三上はずっと傍観者で、何をするわけでもない。傍観者として客観的に事態を把握して、その事実をどう噛み砕いて伝えるのかを考え抜く。三上はそういう役どころであり、ある意味、広報の立ち位置そのものなんだろうと思います。

組織における広報の仕事の独自性というか、難しさはそこですよね。劇中に「刑事は楽な仕事だ」というセリフがあって、もちろん楽なわけではないですよ。ただ広報と比べれば使命は明確で、「犯人を捕まえたか否か」という二者択一で評価できる。それに比べて広報の仕事は、成果が見えづらい。三上のように現場を知っている人であればあるほど、内心忸怩たる思いがあるわけです。

でもそういう仕事って世の中にはたくさんあると思うんです。組織で働くサラリーマンなら誰しも「自分がいるべき場所は本当にここなのか?」と必ず自問自答するでしょう?このドラマも三上はもちろん、三上の部下である諏訪も美雲も、相手方の記者の秋川たちも居場所を探している。

僕自身も同じです。ドラマ制作の仕事といえば、やっぱり最初に憧れるのは監督なんですよ。一方で僕みたいなプロデューサーの仕事は、撮影現場にいないこともあるし、立ち会っていても何の役にも立たない時間がほとんど(笑)。朝、ピエールさんに「おはようございます」とあいさつして、撮影中はぼーっと立っていて、撮り終わったら「お疲れさま」って言っただけという日もあります。そうすると僕なんかも「本当にこの場所でいいんだっけ?」と思ったりしちゃうわけです。でも裏では経理とか労務管理とか、危機管理の仕事があって、トラブルがあれば解決しなきゃいけない。結局のところ、それがプロデューサーである自分の役割なんですよね。

自らに問いかけ葛藤しつつも、最終的にはやっぱりここが自分の場所なんだろうな、という結論に辿りつく。このドラマはそういう思いが全編にわたりあふれているところが、物凄く好きなんですよね。広報の人はもちろん、サラリーマンなら誰しも重ね合わせることができる感情があるはずで、僕は勝手に、「居場所探しのドラマ」だと解釈しています。

いよいよ4月18日から全5回のドラマがスタートしますが、初回のタイトルは「窓」。「広報室は窓」という原作でも印象的だったセリフから付けました。仕事と真剣に向き合っている『広報会議』の読者の方々にぜひ観てほしいと思います。僕も作品を見ながら、自分の居場所を考えたいです。

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