ネット文化は『電波少年』の影響を受けている—土屋敏男×谷口マサト対談(上)

見ている人、やっている人と、やらせている人の三角関係

土屋:見ている人と、やっている人と、やらせている人、その三角関係なんですよ。つくっている側の、「なぜやらせているのか」とかを出していく。電波少年だと僕が出ていましたけど、その関係というか、その先に何を撮ろうとしているという意志があるわけですよ。そこが見えることがドキュメンタリーバラエティ。

境:たしかに作り手が視界に入ってくるというは、土屋さんもやったし、「水曜どうでしょう」のディレクター藤村忠寿さんもやっていた。

土屋:そこに、どういうスーパーをいれるかも作り手の意志。そのことに無自覚になって、みんなが入れているから入れるというのでは、そこが見えなくなっていく。作り手と見ている人と出ている人という三角関係は意外と意識されていない。

谷口:ここは、いまネットは未発達の分野ですね。面白いです。

境:でも現象的には、谷口さんも「これはまた谷口マサトの記事だ!」という受け入れ方をされているので、それとちょっと近いかもしれませんけどね。

谷口:ただ、やらせる側を出すというのは足りなかったかな、もう少しメタ的に扱ってもいいかもしれません。

土屋:だから谷口さんというのは、こういう人なんだなという、作り手の姿やキャラクターが見えるから、「今回はやっぱりそうしたな、今日はこうしたの?」というのが見えた方が豊かになるわけじゃないですか。谷口さん、「あれっこっちに振れてきたの?」という物語が見えてくる。

谷口:プロデューサーがどこまで前面にでていいのか悩みます。ぜひ先輩として教えてほしいです。

境:電波少年では土屋さんも最初からは出ていないですよね?

土屋:僕の師匠、萩本欽一さんはスタッフが舞台に出るのを嫌がるんですよ。「出るんだったらちゃんと出ろ、そのかわりちゃんと笑わして帰れよ」というのを厳しく言う人だから。だから舞台には近づいたらダメだと思っていた。

僕が出るようになったのは、猿岩石からなんですけど、彼らが香港から深センにいくときに、僕が「(日本に)帰るか?」と聞いたら、「行きます」って言った。その後、彼らは後悔して、何度もリタイアを考える。でも「あのとき、行きますっていっちゃったなあ、これでリタイアしたら、土屋ってやつに、ほら見ろって言われるなあ」というのが悔しくて、最後まで行った。それを機に、誰にそういうことを言われたのかが必要だと気づいて、それでドロンズ以降は「やるか、やらないか」みないなことは僕が言うようになった。松村、松本が言う番組ではなく、彼らも被害者だったから。

境:確かに、途中から「聞く」というシーンが定番になりましたよね。

谷口:印象的なシーンでしたね。

土屋:何を言われるのかなということろも、面白いじゃないですか。だまっていてもその時間が面白いんですよ。

良い炎上と悪い炎上のちがいはあるのか?

境:電波少年ではいろんな事件があって、世間的にひんしゅくを買うこともありました。そういう時はクレームの電話があったりしたんですか。

土屋:ありましたよ。日曜の夜なので酔っ払っているんですよ、「テレビでこんなことやっていいのか」って。おあつらえ向きなんでしょうね。明らかな酔っ払いに対して、すいません、すいませんと言わなきゃいけない。

そこで、これを松村にやらせようと。松村に苦情電話を受けさせて、「参考までにお名前と住所を教えてください」って相手の住所と名前を聞くと、酔っ払ってるから言うわけですよ。それっと、松村とカメラで行って、ピンポーンと押してドアが開くと、松村が土下座しているんですよ。「本当に許してくれないでしょうか、許してくれるまで帰れません、許していただけますか」。これを翌週に放送したら、それから一本も電話がかかってこなかった。こいつらホントに来るぞって。

境:(笑)谷口さんはネットでいろんな記事出していて、ひんしゅくをかうことはやっていないと思いますが。

谷口:そうですね、振り切れてないとよく言われますが、おとなしめだと思いますよ。

境:おとなしいとは思わない(笑)。炎上はないですか?

谷口:いまのとこ、ないですね。

土屋:「炎上」って僕はおかしいと思う。炎上ってなんですか?あれ、どっから炎上?1秒あたり何コメント、定義はないでしょ。どっから炎上ですか、トータル10個苦情がきたらとか、何か決めてくれないと、数値でもなんでもない。炎上という言葉でオールマイティになっている。そんな、ものをつくる上で馬鹿にした話はない。

谷口:広告がどんどんコンテンツによっているから、危険性は増えていると思いました。映像の長さも1分とかあると、その分クレームも受けやすくなった。15秒だったら、そんなにつっこまれない。

境:長いから、つっこみどころができる。

谷口:怖いと思いますね。

土屋:あえて言うなら、悪い炎上と、良い炎上があるのかも。

境:炎上というのはみんな気にしていますが、具体的にネガティブな側面は有りますか。

谷口:作り手としては、つっこみっていい炎上なので。いかにいい炎上をさせるのか。ネットのコンテンツはつっこみか、ぼけっぱなしがどっちかなので。いい炎上をしないと成り立たない。いい炎上というのは、しなくてもいいことを全力でやって、みんなが憐れんでくれるという姿勢ですね。

境:面白いと思っているから、つっこんでくれている、みたいなのがいい炎上。

谷口:間違った努力している人には、みんな優しいですよね。それに突っ込んでもらうということで、炎上しないようにしている。本当に可哀そう、となると悲劇になってしまって駄目だけど。

(下に続く)


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境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

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