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時間軸による差別化
「戦略」というのはつまるところ、限られた有効な資源をどのように活用するか、ということに尽きます。リチャード・P・ルメルト氏は、もし企業に資源が無限にあるなら、戦略は必要ないとまで言い切っています。
「戦略」に関する議論はとにかく複雑で単一な考えで表されることが少ないのは、その資源の使い道が多様であるからと言えます。ただ、戦略によって資源が割り当てられるからといって、戦略はアロケーションや最適化という言葉で表現するよりも、デザインとかコーディネーションという方がしっくりきます。
それは、ターゲットと味方の動きを考慮し(コーディネート)、思う通りに描く(デザイン)のが戦略だからです。そこにはリスクを予測したプランBはあっても、戦略Bはない。デザインやファッションが細部やアイテムは変えることはあっても、コンセプトや趣旨を変えることがないように。
そして、楠木建氏が著書『ストーリーとしての競争戦略』で明らかにしたように、戦略には有限な資源の活用に合わせて、「時間軸による差別化」が要素として不可欠です。楠木氏はこれを「ストーリー」と呼んでいるので、コンテンツでいう物語と混同しやすく、ややこしいのですが、伝えたいことは物語のように「AをまずしてからBをする」のように時間的順序が大事ということです。同じことを実行するにしても、並行してやることもなければ逆もあり得ない。
この理由は、競争戦略上のジレンマとつながっています。「正しい戦略というのは、いくら優れていても誰もが真似することが出来るはずなので、先行者が差別的な優位性を持っていても、それは時間とともに減少し、最後には完全競争に陥って差が出なくなる」という結論からです。楠木氏はその完全競争を避ける戦略として、時間により差を生み出すことの重要性をストーリーという言葉で表したのです。