その商品は既に買われている!インバウンドの爆買いは来日前のネットやSNSで決定済み

典型的な中国からの訪日客のカスタマージャーニーをまとめたものが、左の図である。ご覧のように友人のSNS経由の旅行情報などに触発されて検索し、商品情報を集めてから旅行に行き旅行中でも検索し、買い物をした後にSNSで発信する。

また帰国した後にもSNSで発信するのでSNSには非常に多くの投稿がなされる。

しかも「SNSへの投稿は日本で行う人の比率のほうが高い」(インテグレート・藤田代表)ということである。

検索に関しては検索ワードやリンク先にきちんとした母国語の情報が存在することが肝要である。これで解るように、日本国内の消費に大きく影響しているのは中国の場合には日本に存在しないプラットフォームであり、中国内のページということになる。

しかも、短い期間で大量の買い物をするために買うものや場所もあらかじめリスト化して決めているので、日本に来るときには「その商品は既に買われている」ということになる。

このような現象はまさにグローバル化とインターネット・SNSの普及によってもたらされた新しい経済循環システムと言えるのではないだろうか?

このように、日本に来る前におおよそ購入でするものは決めているのではあるが、中には日本国内でも品薄になっている商品もあるので、そのような場合でもやはりSNSで消費が動いているということのようだ。

最近あるメーカーのマーケティング担当者に聞いたところ、例えば東南アジアや中国で人気のヘルスケアや化粧品などの商品は日本国内で売られている場所が判明するとすぐメールやSNSで情報がシェアされ観光客が押し寄せるという。

場合によっては特定店舗の入荷状況を把握し、入荷日には早朝よりその店舗に外国人観光客の列ができるというのである。

このような状況が続くとメーカーは国内消費者に商品を届けられないので、広告を打つことができず、長期的なブランディングという観点でも問題が起きているという。

このように従来の常識では考えられない消費行動が起きているが、これは決して一過性の事態と捉えないほうが良いだろう。国際化、ネット化が進んだ結果、日本の商品の持つ優位性が浮き彫りになり世界的なスケールで新たな需要が創造された結果ということができないだろうか?

その意味では国内市場向けに開発した商品であっても海外での商品情報の提供や、日本国内での海外向けの商品情報あるいはSNS活用が求められることになる可能性が高い。

欧米のブランド品を日本人が海外で積極的に購入していた時代があったが、日本の国内向け商品が他の国の消費者に支えられる時代が来てもおかしくない状況が起きている。

これをチャンスと捉えビジネス的にもブランド的にも価値を高められれば、日本がよりグローバリズムとネット化に乗じて存在を増す機会が来ていると考えるのは筆者だけであろうか?

1 2
江端 浩人(事業構想大学院大学教授)
江端 浩人(事業構想大学院大学教授)

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、2005年日本コカ・コーラ入社、iマーケティングバイスプレジデント。2012年9月から日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長。2014年11月よりアイ・エム・ジェイ執行役員CMO。2017年3月ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。現在、同社執行役員メディア統括部長兼株式会社MERY副社長。

日本コカ・コーラ在職中は、同社が運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を開発し会員数約1200万人、月間PV約10億を誇る巨大メディアに成長させた。

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。2014年に日経BP広告大賞を受賞。2012年4月に開学した「事業構想大学院大学」の教授に就任。日本マーケティング学会会員。

江端 浩人(事業構想大学院大学教授)

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、2005年日本コカ・コーラ入社、iマーケティングバイスプレジデント。2012年9月から日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長。2014年11月よりアイ・エム・ジェイ執行役員CMO。2017年3月ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。現在、同社執行役員メディア統括部長兼株式会社MERY副社長。

日本コカ・コーラ在職中は、同社が運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を開発し会員数約1200万人、月間PV約10億を誇る巨大メディアに成長させた。

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。2014年に日経BP広告大賞を受賞。2012年4月に開学した「事業構想大学院大学」の教授に就任。日本マーケティング学会会員。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ