4月26日に投開票が行われた第18回統一地方選挙。なかでも注目を集めたのは、同性カップルを結婚に相当する関係と認める「同性パートナー条例」を全国に先駆けて成立させた東京都渋谷区の区長選だった。各政党が推薦する候補者を含む新人4人の争いを制したのは、無所属・新人の長谷部健氏。同氏は2003年に渋谷区議会議員に初当選して以来、3期連続でトップ当選を果たしており、今回は現職区長・桑原敏武氏から後継指名を受けての当選、区長就任となる。
長谷部氏は大学卒業後、博報堂に入社。同社を退職後、2002年にNPO法人green birdを設立し、原宿・表参道エリアを皮切りに全国60カ所以上でごみのポイ捨てに関するプロモーション活動を実施してきた。累計参加者数が2万5000人にのぼる市民大学「NPO法人 シブヤ大学」の設立(2004年)や、「自分の責任で自由に遊ぶ」がテーマの公園「はるのおがわプレーパーク」の運営(2004年~)、宮下公園のリニューアル(2011年)、渋谷区とNPO法人 ピープルデザイン研究所および慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科が共催した、福祉の未来を考えるイベント「超福祉展」(2014年)など、過去12年間にわたり積み重ねてきた実績が、支持につながった。
商業のみの大規模ビルは新たに建設しないという「ミックスユースビル」の発想や、行政と民間のタイアップ事業を増やすためのシステムづくり、保育園・幼稚園・認定こども園での先進的な乳幼児教育の導入など、これまでの区政の枠組みにとらわれない政策にも期待が高まる。
また同氏は、前述の「同性パートナー条例」の制定を推進してきた人物の一人。3月31日に成立、4月1日に施行された同条例に対する今後の対応が争点の一つとなった今回の区長選において、同氏の区議時代の取り組みは特に高く評価されたと言える。投開票日の26日は、ちょうど区内の代々木公園でLGBT(セクシュアル・マイノリティ)への理解を求めるイベント「東京レインボープライド」が開催されており、多くの参加者が長谷部氏の事務所に集まったという。
電通のダイバーシティ課題対応専門組織「電通ダイバーシティ・ラボ」が4月23日に発表した「LGBT調査2015」によると、調査対象者6万9989名のうち、LGBTを含むセクシュアル・マイノリティ(LGBT層)に該当する人は7.6%で、2012年に行った調査時の5.2%を上回る結果となった。増加した理由としては、調査手法の変更のほか、社会環境の変化や関連情報の増大により、該当者の自己認識に影響があったことなどが想定されるという。LGBT層への認知・理解が徐々に深まりつつある中、条例制定で先頭に立つ渋谷区が今後どのような取り組みを進めていくのか、また、それが他の自治体にどのような影響を与えていくのか、注目が集まる。
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