作り手にとっての幸せな状況とは
田川:小説もそのうち、中にアルゴリズムが埋め込まれていて、読む人によって展開が変わる…といったことが可能になるかもしれないですね。
平野:小説はストーリー(物語)とプロット(どういう順序で展開するか、どう深めるか)に分けて考えられます。
小説体験は、主にプロットによって変わってきます。19世紀の小説って立ち上がりが重くて、走り幅飛びで言えば、助走が延々と続く。想像するに、リアリティーを感じるために、ある程度のインフォメーションが必要だったんじゃないかな。
でも今は、助走はできるだけ短くて、飛んでいるところだけを見たいという読者が増えました。最近の小説の最大の売り文句は、「ページをめくる手が止まらない」ですからね。
でも、僕は「ああ、もう終わってしまう」と、めくる手を止めたくなるような本を書きたい。この時間に浸っていたいと読み手に思わせたいし、1回ではなく繰り返し読んでもらいたい。プロダクトデザインでは、ユーザーが向き合う時間の長さの違いは反映されますか?
田川:寿命が数カ月のデザインと、数年使うものではデザインが全く違います。長く使われるものは、使い手と道具の間の信頼関係が目減りしないことが大事になります。
例えば、ダメージを受けやすいプラスチック素材だと傷ができた瞬間に心が離れることがあるから、傷が味わいになる方向性で素材をチョイスする、といったことです。
作り手として幸せな状況だと思うのは、時間をかけて作れて、ユーザーも吟味して選んでくれ、長い時間それを使ってくれる。そして使用後も中古に出たりして、市場にあり続けるもの。
デザイナーたちが最終的に家具の世界に行くのも、いい家具は一生使ってもらえるからでしょう。そういうものは、プロダクトの世界でも減っていると思います。
平野:ファッションの世界は、インターネットでシーズン落ちの服が買えるようになって、6カ月のトレンドサイクルから、3~4年のゆるやかな周期になっていますね。トレンドを着こなそうとするよりも、マイワールド化しやすくなっている。
田川:そうですね。ファッションは、買う人の世界観に預けた方が成立しやすくなっている。平野さんがおっしゃったようなテンポの話は、まだ色々な要素が揺れ動いている最中ですが、今までなかった成立の仕方を考えられる面白い状況とも言えそうです。
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