体験価値での差別化がブランドを強くする
MasterCardの石中氏からは、「実際にブランドを選択する瞬間以前の接点、コミュニケーションが大事」との考えが示されたが、一方でそこでの体験の向上に欠かせないのが、既存顧客からの良い口コミの発信が欠かせない。
しかし「当然、口コミはコントロールできるものではないし、コミュニケーション施策によって、拡散を期待するものでもない。遠回りのようでいても、まずは目の前にいるお客様にいかに満足していただくかに集中するしかない」と話した。
こうした考えのもと、同社では、かつては「Priceless」のキャッチフレーズでのテレビをはじめとしたマス広告に力を入れていたが、現在では「Priceless」のコンセプトは変わらずに、それを実際のお客様の利用の場に広げた体験型のコミュニケーションへとシフトしつつある。
具体的には「Priceless Cities」という名称で、世界の主要としてMasterCard会員しか利用できない特別な体験プログラムを用意。「割引キャンペーンなどでは、差別化が難しい中、プラスαの体験価値を創出することに力を入れている」という。
石中氏の話を受けて、日本航空の二木氏も「石中氏の意見に賛同する。自分自身が、これまで長年、営業やマーケティングという、搭乗いただく前のコミュニケーションを担ってきたからこそ実感するのは、結局は利用いただくきっかけを作っても、最後はリアルな接点での接客の体験ですべてが決まると考えている」と話した。
サービス体験を高めるのは、空港スタッフや客室乗務員の顧客の気持ちの一歩先を読む、察知力・洞察力。一人ひとりの社員の能力や意識を高めることも重要だが、加えて顧客データの分析、さらに顧客接点の現場でもデータ利用を可能にすることで、お客様の期待を超えるサービス提供も実現できるのではないかと考えているという。
お客様が学び、成長していく独自のジャーニー
これまでの研究会では、コモディティ化が各社の共通課題としてあがってきていたが、その中で「業態自体にオリジナリティがあるので競合がいない」と話した、「キッザニア」のKCJ JAPANの関口氏からの発表には、他の参加者からの質問も多くあがった。
関口氏は「『キッザニア』にお子さんがデビューする年齢は、3~4歳。その後、中学になると卒業していく。常にお客様が入れ替わっていくので、『キッザニア』はコンテンツの充実と、アクティビティを体験する場での満足度を高めるための努力を徹底する。ここに全力で取り組むことが、当社にとって何よりも大事」と話した。
一方で、現在は2か所の国内拠点をもっと増やしてほしいという声は多くあるが、サービスや体験のクオリティを保った運営体制・人材確保については妥協できないため出店には慎重にならざるを得ないため、時間がかかる」という課題もあるという。
体験価値の向上にコラボレーションが生きる
議論の最後に加藤氏は「前回から参加者の皆さんに、カスタマージャーニーをその場で図解しながら説明いただいているが、業態・業種の異なる企業の方たちが集まってカスタマージャーニーを紹介しあうと、その違いに新しい発見が多くあった。
またマーケターの方たちは、発想が豊かなので、互いにジャーニーを披露しあうことで『もしかしたら、他のブランドさんのジャーニーのこの部分で自社とコラボできるのでは?』というアイデアが広がっていく」と話した。
実際、これからサービス自体の認知を拡大していきたい「カレコ」の遠藤氏からは、「都心部では、クルマのない生活が当たり前となり、なくても不便を感じている人が少ないため、カーシェアを利用する具体的シーン(=クルマニーズ)を見つけた上で、付加価値を訴求する活動が欠かせない」と話している。
そこで、遠藤氏はラーメン好きのコミュニティを対象に「クルマを使った深夜のラーメン店めぐり」を、カメラ女子のコミュニティに「クルマでないと行けない、撮影スポットめぐり」の提案をするなど、クルマニーズの発生するシチュエーション開発に力を入れてきた。
「サービスを利用してもらえるシーンの開発をしていくなかで、特定の嗜好や行動スタイルを持った、コミュニティを抱える他ブランドとコラボレーションが非常に有効な手段だと感じている」との遠藤氏の話には、他の参加者も共感をしていた。
今回の研究会を通じ、商品・サービスの機能性訴求にとどまらない、使用シーンにおける体験価値の向上を考える上で、他ブランドとのコラボレーションに大きな可能性が見えてきた。
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