1%でも面白くしようと最後まで粘ることが大切
権八:澤本さんは歌モノやリズムモノのCMって何かやったことあります?
澤本:嫌いではなくて、15年以上前にWOWOWで踊ってるのをやったりとか。「月々たったの3千円でハイレグー♪」みたいなもの。あとタウンワークのCMをやったときに、「タウンワークタウンワーク仕事仕事ー♪」っていうのをやったね。
中村:権八さんは、リズム系は?
権八:沖縄のCMでスマップが歌っている、「空イズSky、海イズSea♪」っていう。
権八:こういうリズムが凄い好きで、それこそ「We Will Rock you」的な。
澤本:「This is ビーチク This isビーチ♪」ね。よく通ったよね、これ。しかも、Smapさんに言わせてるんだよ。
権八:通すのは本当に大変でしたね。さらに、あれは制作している段階で全日空さんが気づいて、「これはやっぱりマズイんじゃないか」と。
澤本:そこまで気づいてなかったの(笑)?
権八:そう。なんか楽しくていいですねって。ノリノリでプレゼンしてたから。それで、「いいですね!」ってなったんだけど、途中で「やっぱり、ここは変えてくれ」と。そしたら演出の中島哲也監督が、「おれはビーチクって歌詞があったから受けたんだ」みたいな。
一同:爆笑
権八:「それがなくなるなら俺は降りる」みたいなことを言い出して。「えーっ、ちょっと待ってください」と。それで、ビーチクよりも面白い代案を考えなきゃとなって、そこから大変で、何百個も考えましたね。
澤本:ビーチクの代わりを(笑)?
権八:代わりを。だけど、結局、哲也さんも「全然ダメ、つまらない」とか言って。全日空さん的にはOKなのがいっぱい出てるんだけど、哲也さん的には「ビーチクに匹敵してない!」みたいな(笑)。結局、全日空さんに頼みこんで「ビーチクも撮らせてください。保険でこれも撮りますから」と言って、それが「男の視線がいやーん、ばかんすー♪」っていう。
一同:笑
権八:結局、初号のときに奇跡が起きたんですよ。全日空さんの宣伝部長が変わっていて、新しい方になって。その方が経過を知らずに初めて見て、「ええやん、おもろいやん、ビーチクのほうがええやん」って(笑)。サラッと通った。
澤本:それ撮っておいてよかったね。僕らってそういうときに撮っておく癖があるじゃない。コンテが決まっていても、ちょっとエキストラを撮っておいて、後で比較して、「面白いほうを選んでください」とチャンレジする癖があるけど、意外とみんなそれをやらない。「最近の若い人は」っていうとオッサンだけど、コンテで決まっているものしか撮っちゃいけないという教育を受けていて、エキストラでこういうセリフがありますというのを撮らない。でも、編集で面白くなることっていっぱいあるじゃない。
権八:もったいないですよね。その場しか撮れないわけだからね。後でタレントさんを呼ぶわけにもいかないし。
澤本:僕らが撮影現場でできることって、エキストラのセリフを考えて、監督に「ちょっとお願いします」っていうことぐらいしかない。あと、お菓子を食べるぐらいしか(笑)。
権八:そうなんですよ、本当そう! あとね、ボーっとしてたり、「エキストラの子がかわいいな」とか、そういう話をしてるぐらい(笑)。でも、セリフの代案を現場で考えて、どれだけより面白くなるようにするかというのが僕らの現場の仕事。
澤本:撮影の現場まで「このセリフは違うんじゃないかな」と、ずっと思い続けて、また書いて撮ってということを僕は習った。先輩から「そうやれ」って。教えられないと怖くてできないんだろうね。。意外とアナザーテイクを撮って、そっちを使ったほうが面白いんだよ。
権八:そうなんですよね。結局、現場で女優さんや俳優さんの雰囲気とかやり取りとか、実際に肉声で聞いて、「あっ、ちょっと違うかも」って思うときあるし。
澤本:書いているとき、思っているときの言葉と、実際にその場で聞いたときのセリフは違うから。書き言葉と話し言葉は違うということでいうと、現場で聞いて「こっちのほうがいいな」って思ったら、後でどうなるかは別として頼んで撮っておいたほうがいいよね。
権八:いいですね。中島哲也さんは「コンテを描いてるときの自分と、現場で演出しているときの自分は別人だ」みたいな話をしていたじゃないですか。実際に違いますからね。頭で考えて、机の上で書いてるときと、現場で聞いてるときは違うから。
澤本:ソフトバンクなんて、北大路欣也さんをブースにお呼びして、声を入れる最後の最後までコンテは確定しないからね。セリフは決まっているけど、実際に読んでもらって…たとえば「今日はタクシーで向かいます」というセリフを言ってもらって、ちょっと良くないなってなったら、「今日はタクシーで向かう」に変えるとか、「今日はバスにする」と変えて。面白ければそっちにするというのをクライアントの人と相談して決めちゃうから、最後の最後まで「1%でも面白くなるんだったら面白くしてやろう」っていう風に粘っていった結果、ちょっと面白くなるということじゃないかと思うんだよね。
権八:そうなんですよ。CMは15秒であっという間だし、意外と最後の粘りが雌雄を決するというか。
澤本:そこで粘るか粘らないかで、あとで後悔するかどうか決まるもんね。あのとき眠かったからなとかね。お腹減ってたからやめちゃったとかね(笑)。
権八:そう、後悔するんですよね! 10年以上前かな。僕が澤本さんの下についていたときに、澤本さんが決意したかのように「俺、思ったことは言うって決めた」と言っていたのをよく覚えてますよ。思ったことを言わないことあるじゃないですか、僕らって。こんなことを言ったら悪いかなとか。でも、言ったほうがいいんですよね。