デザインを構成する要素は、タイトル、写真、イラスト、図表などですが、ラフ作りに最低限必要なのは「タイトル」と「メインビジュアル」です。これは実際に使う原稿をはめ込みます。それ以外の要素でまだ用意ができていないものは「アタリ」としてスペースを取っておきます。
選ぶ(あるいはこれから撮る)写真について、僕が一つだけこだわっていることがあります。それは、「人物」が写り込んだ写真があるか?…という点です。試しに、何かお手元にある広告の人物部分を手で隠したりして、人の写真がある場合とない場合を比べてみてください。広告全体の印象が違って見えませんか? それが単なるモデルさんの顔だとしても、人が写っているほうが誌面に「動き」を感じませんか? で、隠したとたんに誌面の「グリッド感」が強調されて、冷たく「無機質」なイメージになりませんか? 不思議とこれ、動物やイラストだとあまり差が感じられず、やはり「人物」の「写真」が強い。まわりのタイトルや商品写真と人物が結びついて、何となくですがボディコピーに「物語」を予感させ、ちょっと読んでみようか、と思わせる効果が出ると思います。個人的には、広告内に最低一つは、人物を絡めた写真を入れるようにしています。
後で大きな直しが入らないように、タイトル回りなどを「確定」しながら進めることは大事なのですが、ラフは「コンセプト」をスタッフで共有するためのものなので、見た目を「キレイ」に作る必要はありません。むしろ僕の経験上、あまり精密に描き過ぎると、デザイナーはそのスケッチ通りに仕上げようとしてしまい、プロとしての独創性を発揮してくれないケースがあります。ラフの段階では、必要な要素の取捨選択、文字原稿の調整などを主眼として、細かいレイアウトは全面的にデザイナーに託す!という考え方もアリだと思います。たまに、ラフスケッチをPCで描こうとする人がいますが、一見きれいに見えても、要素を並べただけのメリハリのないレイアウトになるケースが目に付きます。ここは初心者ほど「手描き」にこだわったほうがいいと思います。
僕のラフスケッチは、本当に「ラフ」です。たとえば「こんな写真が欲しい!」という要望も下手な絵でスケッチしますが、何かを覗き込もうとしている人の首が異常に長かったり、ビックリしている人の顔は漫画のように目玉が飛び出していたりします。強調したい見出しを幾重にもなぞって描くから文字の輪郭はギザギザだし、空いたスペースには、引出し線で「見出しと写真を固まりで見せたい!」とか、「どうしても入らなければ3番目の写真を外す!」…などの書き込みがあり、紙はもう真っ黒です。けして「キレイ」でも「精密」でもありませんが、デザインは自分の想像通りか、それ以上の出来栄えで上がってきます(デザイナーの腕かもしれませんが…)。始末はきちんとその道のプロがやってくれますから、ラフは体裁より「指示」の内容や、その「優先順位」を具体的に伝えることを心がけます。
…ここまでラフスケッチのことを書いていて、ある言葉を思い出しました。コピーライターの仲畑貴志さんの会社、「仲畑広告制作所」の社訓(?)の一つにあった、「つべこべ言わずに版下で!」という一文です(今もあるかはわかりませんが…)。
「版下」とは、アナログ時代に印刷フィルムを作る際に使われた紙の台紙のことで、当時はデザイナーが、「バラ打ち」された写植文字や図表を、スプレー糊とピンセットでここに切り貼りしていました。「つべこべ〜」のフレーズには、フィニッシュワークに集中するデザイナーの仕事に対する責任感と緊張感を感じます。と同時に、その寸前まで喧々囂々やり合っていた、傍らのコピーライターたちとのチームワークを感じます。つまり、一流のクリエイターをして、あーだこーだと言い始めるとキリがない。デザインの最終的な仕上がり具合は、実際の版下をいじって決めるしかないのだ!というわけです(…勝手にそう解釈してます)。
ラフスケッチは、その喧々囂々の叩き台であり、いいものを作るために集うスタッフたちの拠り所です。クリエイティブのチームリーダーであるあなたは、まず自らのラフを提示して、それを基にスタッフたちの意見を引き出し、集約して、その先へ進みます———
(続きは次回!)
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