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アップルウォッチは高機能化を目指していない
アップルウォッチがいよいよ発売され、スマートデバイスが電話や手帳のようなインターフェイスを超えて、腕時計というウェアラブル端末として生活のなかに入ってくるようになりました。これは単にスマートフォンの拡張としてのウェアラブルと考えるよりも、「インターネット・オブ・シングス(IoT)」や「インターネット・オブ・エブリシング(IoE)」の流れとして捉えるべきではないかと思います。
というのも、時計という端末は、どう考えてもスクリーンの大型化が激しいスマートフォンの潮流と比較すると「貧弱で機能縮小」しているように見えるからです。一部の人にとっては、スマートフォンと連携するだけの玩具のように見えてしまうでしょう。
時期を同じくして米アマゾンが、「ダッシュ・ボタン」と呼ばれるシンプルなデバイスを開発して、プレミアム会員向けに無料で提供することを発表しました。これはアップルウォッチと同様、スマートフォンの進化のように多機能化、高機能化するのではなく、非常に単純な目的のために役割を特化したデバイスを目指しています。
ダッシュ・ボタンは、生活用品などのブランドのロゴマークが付いたボタンを押すだけで、アマゾンでその商品が発注され、届けられるという仕組みです。あまりに単純で驚くかもしれませんが、これは彼らのサイトにある「ワンクリックボタン」をそのまま物理的に具現化したものです。しかし、このシンプルなアイデアによって、いままでの「デバイスを起動する」「ネットを立ち上げる」「サイトを開く」「ログインする」「商品を探す」などの一連のインターネットでの行動プロセスが省略されています。このデバイスが消費者にもたらす便利さそのものがマーケティングと言えるでしょう。
同様にアップルウォッチは、文字通り、基本的には時計です。時計はインタラクティブデバイスではありません、通知がメインです。そして、その通知が直接ユーザーの行動に結びつくところ(時間がない、急がなければならない)が、時計がシンプルでパワフルな所以です。アップルウォッチは、この情報が直接行動に結びつくことに特化しています。だから人によっては機能がとても貧弱に見えるでしょう。「ネットで検索をする」「メールを打つ」などのような複雑な行動には向いていないからです。しかし、通知とワンクリックでできるアクションだけに特化した場合は、スマートフォンで想定される「デバイスの起動」「アプリを立ち上げる」といった行動が省略されます。これによってもたらされる消費者の価値は大きなものです。