複雑化した時代にこそ求められる、プロデュース力
——両社とも課題を踏まえ、新しいキャンペーンや取り組みをされています。最近の事例を、意図や背景と併せて紹介いただけますか。
矢村:私たちはこれまで新しい商品の投入や新規出店で売上を拡大してきました。メガネは一般的には4年に一度くらいしか購入されない、生活者との接点が少ない商材です。競合環境も厳しくなるなかで、生活者とのつながりをつくっていくということを、エモーショナルに伝えるためにこの4月に立ち上がったキャンペーンでは、「見つめているすべてが、人生だ。」と題した71秒の動画を作成しました。一人の人物が、幼少期から壮年期に至るまで見てきたものを、メガネのレンズに写った風景で追っていくムービーで、 テレビCMは行わず、Webのみで配信する形でスタートしています。
面白い商品を出したときに、たくさんの人に知っていただくことは重要です。一方で、私たちがどうやって生活者とのつながりをつくっていくのか、いろいろな手法はあると思いますが、相当な工夫をしないと届かない時代でもあるため、そこに注力していかなければ長期的な成長はないと思います。
西村:私たちは3年前から東京マラソンの沿道でトマトを無料提供する形での協賛を始めました。最初の年は意外性でメディアにも取り上げられて、認知がとれました。ですが、本当に伝えたいことは、トマトの抗酸化作用がランナーに効果があるということで、そのメッセージをいかに感じてもらうかが課題でした。こうした背景や昨今の「ウェアラブル」ブームを組み合わせて、「ウェアラブルトマト」の動画を作成しました。
動画には「トマトジュース」が一切出てきませんが、私どもは「高リコピントマト」という活性酸素を消す働きがあるリコピン濃度が高い生鮮トマトを発売しています。ジュースやケチャップなどの加工食品だけではなく、生野菜としてのトマトも扱っておりますので、「トマト」そのものがビジネスの核になっています。そこで、生鮮トマトによる情報発信を通じて、トマトそのものの価値を上げていこうということを意図しています。「ウェアラブル」、「ランナー×トマト」といったことを動画で印象に残すことで、ホームページへ誘導する。そこで文字媒体で抗酸化作用を伝えるというような、動画を活用しつつ、映像だけでは伝わらない情報をいかに伝えるかという課題に取り組みました。
矢村:そこはカゴメさんがトマトとの距離がものすごく近いという資産があるからできることでもありますね。
西村:そういう部分はあると思います。
——最後に、これからのマーケティングや宣伝の担当者に求められることについてお聞かせください。
矢村:広告やプロモーション、デジタルといったひとつの打ち手で決定的な解決策が見出せない時代になると、いろいろな手法を組み合わせたり、自分たちの商品や店舗を媒体として使っていたりすることが不可欠になってきます。そういう意味で、広告会社に丸投げするのではなく、自らが社内プロデューサーになって代理店的な動きができなければ良いコンテンツやサービスは生まれないと思います。
西村:私は現在「コーポレートコミュニケーション本部」に属していて、加工食品全般を扱う「コンシューマー事業本部」や生鮮商品を扱う「農事業本部」、また、通販ビジネスに特化した「通販事業本部」といったビジネスを推進している各事業部と連携しながらコミュニケーション活動に取り組んでいます。各事業推進の支援と同時に、企業KAGOMEとしての統合的なイメージ形成が役割でもありますので、連携することの難しさを感じることもありますが、それぞれの本部の知見をうまく共有しながら、狙いや目的といった根本的な部分で合意しながらアウトプットに結び付けていくことが求められます。そのためには、社内外への取材力と情報編集力、そして組織の垣根を超えたプロデュース力が、今以上に必要になっていくのだろうと感じています。
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