【前回のコラム】「スポーツ弱者な僕が、バブルサッカーを輸入してみた。」はこちら
2014年10月頃。
僕はバブルサッカーに興じる人々を見て、
口角をあげながら眉間に皺を寄せるという
複雑怪奇な表情を浮かべていました。
確かにバブルサッカーは大ブレイクしました。
嬉しくないといったら嘘になります。
でも、僕はバブルサッカーを仲間たちと日本に持ってきただけで、
そんなに大したことはしていないのです。例えるなら…
ろくに育ててもいない子が、
勝手に国民的アイドルになっていく感覚。
みんなが褒めてくれるんです。
「素敵なお子さんですね」「よく立派に育て上げましたね」
何もしていないんです。
ただバブルを輸入して市場に放っただけなんです。
それでもスクスクと育つ、生来的にポテンシャルの高い子だっただけなんです。
また別の懸念として、
バブルサッカーはスポーツ弱者の味方とはいえ、
まだまだそれですら怖くてできない、
という声もあがっていました。
そこで僕は思いました。
ふだん本職で広告を創っているように、
スポーツをゼロから創れないだろうか。
スポーツ選択肢を劇的に増やせないだろうか。
そうすれば誰もが、
自分と相性の良いスポーツを見つけられるのではないか。
それってもしかしたら、とてつもなく楽しい世界なんじゃないか。
手始めに、目の前にあるバブルサッカーの研究をすることにしました。
この妙ちくりんなスポーツにこそ、
次世代スポーツのヒントが詰まっているに違いありません。
よし、スポーツ研究をしよう。
幸いなことに僕は、ある対象を深く研究することが好きな性分でもあります。
例えば、
口説き文句研究を15年くらいしています。
誰かから「やれ」と言われたわけではありません。
完全に自主的にやっています。
リビドーを抑えきれず、夜通し口説き文句研究に勤しんでしまう日もあります。
次の日は使い物になりません。
何故そんなことになるのか、自分でも理解できません。
でもやってしまうんです。
どうして口説き文句研究をしているのか。
それは、僕が高校時代をシカゴで過ごしたことに起因します。
アメリカ人は、ほんとうに口説き文句を日常づかいするんです。
「君はダイナマイトボディの持ち主だね、キャシー」
「あなたの肉体美こそ、神様からのご褒美?」
所かまわず口説き文句の波状攻撃が、
日夜繰り広げられているのです。
嗚呼嫌だ嫌だ。
口説き文句なんて、軽薄で嫌だ。
そう思っていたある日のことです。
僕は、「運命の口説き文句」と遭遇しました。
アメフトのクォーターバック的な男が
チアリーダー的な女性を口説いているステレオタイプなシーンに
出くわした時の話です。
男が、突如女性の耳元でシャラシャラ囁きました。
「君のお父さんは泥棒?」
また何を言ってるんだ気持ち悪い…。
そのまま二人の前を通り過ぎようとした時、
男が言い放ちました。
「じゃあ誰が星を盗んで、君の瞳に入れたんだい?」
その瞬間、小刻みな震えが僕の全身を襲いました。
何だ…これ…。
すっごくいいじゃないか…。
そう。「泥棒?」という緊張からの急激な緩和。
少ない言葉数の中に裏切り、そしてアイデアがある。
ギャグとしてもクオリティの高い、相手を笑顔にする極上の口説き文句。
現にチアリーダーも、
「何バカな事いってるのよ!」
と言いながらもまんざらではなさそうです。
この時僕は悟りました。
口説き文句とは、ただの軽薄な言葉群ではない。むしろそれは
人間関係を円滑にするコミュニケーションツールだ。
それからというもの、僕は口説き文句研究に没頭しました。
そして、口説き文句は大きく:
①素直 ②比喩 ③逆転 ④発見
⑤誇張 ⑥強引 ⑦未来 ⑧感謝 ⑨欧米
の9パターンに分類できることも人知れず突き止めました。
また、その研究結果を、
R25で連載している「キメゾーの決まり文句じゃキマらねえ」
というマンガでも発表する日々が5年以上続いています。
僕はこの病的な執念を、スポーツ研究に傾けることにしました。