取材を終えて
Arby’sのソーシャルメディアの成功は、やはりソーシャルリスニングにあった。そのモニタリングとインサイトの分析能力が高く、さらには結果を商品開発部やカスタマーサービスなどの担当部署にリアルタイムで共有し、実質的にマーケティング展開していくスピードと連携能力が非常に高いと感心しました。
もともとエージェンシー出身のジョシュ・マーティン氏は、そのマーケターやリサーチャーとしての才能だけではなく、心理学専攻ならではの分析眼と「ファンに面白がってもらいたい」というクリエイティブ志向が強く、それらが相まって、一連のソーシャルメディアマーケティングの成功につながっているように思います。
これまで数々の話題をさらってきたArby’sのソーシャル戦略。それは、グラミー賞の授賞式に偶然起こった事件をたまたま活かすことができた幸運な物語ということで片付けることはできません。
つまり、Arby’sのデジタル&ソーシャルチームが普段からモニタリングスキルに磨きをかけず、組織的にリアルタイム・マーケティングに挑戦できる柔軟な体制と決裁権が現場に委譲されていなかったとしたら、その好機を決して捉えることはできなかったはずです。
マーティン氏の言う、“ソーシャル・ディギング(ソーシャルメディア上で掘り下げて行く作業)”が、どれだけArby’sのマーケティング全体を支えているか、あるいはブランドの成長に影響を与えるかを企業自体がよく理解しているのが彼の自信につながっていると感じました。
また、経営陣や他部署のマネジャーも、ごく一部の若い世代にソーシャルメディア分析を任せるのではなく、積極的に介入してその報告に耳を傾け、スピーディな連携をしていくことがいかに重要か、よく理解できる事例だったと思います。
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結城彩子(ゆうき・あやこ)ブランドストラテジスト
広告代理店などを経て 2002年に米国でYs and Partners, Inc を、2005年にYs and Partners,Japanを共同創業。日本国内と海外に展開するグローバルブランドの戦略立案を手掛け、日米中韓におけるマーケティングコミュニケーションのチームを率いている。現在は、日米オフィスを往復しながら、大学、行政機関などでの講演のほか、著作活動を続けている。