■1.関係者が黙っていれば外部からは問題が発見しづらい
まず2012年ごろに話題になったクチコミサイトなどにおけるステマ手法に比べて、メディア企業によるステマやノンクレジット問題が公に問題として議論されづらいのは、メディアなどの関係者が黙っていれば外部からは非常に問題が発見しづらいという根本的な構造にあります。
私自身も、この業界に入り、WOMマーケティング協議会のガイドライン策定に関わる過程で、実はネットのクチコミマーケティングだけでなく、既存のメディアにおいても、広告の明示が十分ではないケースが複数存在するという話を伝聞で耳にしましたが、実際に当事者が面と向かって教えてくれるはずもなく、その事実の真偽を確認することはできませんでした。
今回のやまもと氏の記事では、「内部からの告発や、被害に遭った複数のウェブメディアからのヒヤリングの結果」とありますから、ある意味関係者の告発があったからこそ、やまもと氏も記事での執筆に踏み切ったと言えます。
こうした内部情報がなければ、メディア媒体における広告のノンクレジットやステマは、記事の見た目が通常の記事と同様の体裁で公開されている以上、実は普通の記事に見えるけど広告であるという事実を外部の人間が知ることは不可能に近いわけです。
実際に今回のサイバーエージェントの謝罪リリースには、4件ほどのノンクレジット手法があったと記載されていますが、その記事がどの媒体に出ていたのか、どの広告主の広告であったのかは開示されておらず、我々部外者からは実際に該当の記事が訂正されたのかどうかすら確認することができません。
現象を確認することができなければ話題にもなりにくいわけで、その結果、広告のノンクレジットやステマ自体が根本的に問題であるという議論が、なかなか表だって議論されず、問題意識が共有されにくかったという構造問題がまず根底にあると言えます。
■2.広告のノンクレジットやステマに違法性がないと思っている人が意外に多い
ネイティブアドという言葉が日本に紹介されたとき、「企業の広告コンテンツをメディアの記事と同様のデザインやスペースに掲載したもの」や「記事と広告を自然に溶け込ませ、ユーザーにストレスを与えず情報を届ける広告のこと。」というような、記事と広告の表示が同じになるという紹介のされ方が良くされました。
これにより、少なくない人がネイティブアドとは「広告を記事と同様に『広告表記をせずに』掲載するもの」だと勘違いしてしまったようです。
本来、ネイティブアドだろうが、記事広告だろうが、他の広告手法であろうが、広告が広告であると明示されていることは消費者保護の観点で必須です。米国IABのネイティブアドプレイブックでも明確に、ネイティブアドはその形式にかかわらず広告であることが明確に開示されていなければならない、と明記されています。
また、日本においてもやまもと氏の記事に「利用者の有利誤認を導く欺瞞的取引は常にアウトであります。要するに、ステマは違法です。」と書かれているように、広告のノンクレジット問題は利用者を恣意的に騙したとみなされる結果になった場合、違法になる可能性が高いようです。
ただ、前述の問題が発覚しづらいという構造問題と、日本のネット広告における広告表記の曖昧さから、そもそも広告のノンクレジットに違法性は無いと勘違いしている人が業界の中にも増えてしまっているようです。
その象徴と言えるのが、CNETの「「ネイティブ広告」で揺れるウェブメディア——協議会と一部媒体に大きな溝」という記事でも紹介されているCINRA代表取締役の杉浦太一氏の発言でしょう。
杉浦氏は自分のブログで、同社が運営している「CINRA.NET」のインタビューの90%以上が広告表記のないタイアップであることを告白して、多数の批判を集めましたが、その後のニコニコ超会議でのパネルディスカッションに登壇し、全く悪びれずに「広告表記があったら、読者はうがった目で記事を見てしまう。ウェブメディアをひとくくりにしてルールを決めるのは間違っている」とウェブメディアにおける広告表記自体を否定した発言を繰り返しているようです。
当然、広告の表記がないことが違法になり得るという認識があれば、こうした発言を公の場所でするはずがありませんから、ご自身はノンクレジットに違法性は無いと思っているのでしょう。ただ、明らかに消費者保護の視点で考えれば、今後こうした広告表記のないノンクレジット手法については規制が厳しくなる方向にあるのは間違いありません。