ニューロマーケティングのさらなる普及に向けて広告主・制作側の理解促進が必要

クリエーターと社内でCMを評価する人たちに必要となるニューロマーケティングに対するリテラシー

ーーニールセン ニューロに対する要望や課題がありましたらお聞かせください。

小林 見学の時にも質問が出ていましたが、測定環境が実験室のようで、必ず映像を最後まで注視するなど理想的過ぎるように感じました。やはり、実際の生活環境の中でCMがどう評価されるのか知りたいという気持ちがあります。

ニールセン 脳科学者 京都大学准教授の辻本悟史氏

ニールセン 脳科学者 京都大学准教授の辻本悟史氏

辻本 確かにそれができればいいのですが、現実的には難しいと思います。被験者が示す脳活動の反応が、テレビCMの映像・音声からなのか、外部環境によるものなのかが切り分けられないからです。世界中で標準化された環境で計測するからこそ、その結果をデータベース化して比較・分析することができます。そちらのメリットの方が大きいと考えています。

小林 家庭のリビングのような周辺環境の設定は無理としても、通常と同じように、CMをテレビ番組の間に入れて測定することはできるのでしょうか。

辻本 映像と映像の間が一定時間空いていないと、被験者の反応が影響されてしまいますので、現在のところそうした調査は行っていません。

戸村 ニールセン ニューロで分析できるのは、完成したCMだけでしょうか。

ニールセン ニューロ クライアントサービス ディレクター  古畑裕之氏

ニールセン ニューロ クライアントサービス ディレクター 古畑裕之氏

古畑 どちらかと言いますと、分析対象が開発段階にあるときに実施すると、マーケティング効果としては高いと思います。例えばテレビCMであれば、ビデオコンテの段階で複数案を調査・分析するのが一番効果的だと考えています。

 どの段階でニールセン ニューロを活用するにしても、CMを制作するクリエーター側のリテラシーが必要になると思います。もし、クリエーターが分析結果に向き合って内容を検証しなければ制作現場は混乱してしまうと思います。

それと、制作されたCMを評価する企業側にも、ニューロマーケティングの知識があり、分析結果を読み解くリテラシーがないと、広告主側と広告会社側、共通の基盤になりにくいと感じます。

小林 クリエイティブのセンスは確かに大事ですが、クリエーターももっとサイエンスから得られたデータを素直に受け入れる必要はあるでしょうね。そのあたり、当社は会社全体としてだんだん科学的なアプローチから得られるデータを受け入れるようになってきています。

今後、CM制作においてニューロマーケティングが当たり前になっていけば、CMを評価する広告主側から、ニューロマーケティングによる分析がどうであるかが求められるようになると思います。

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泰地 当社の場合、どうしてもCMに情報を多く盛り込みがちになってしまうので、今回の分析指標を活かすことで、情報をそぎ落としていきたいと感じました。それと、これまで当社が実施したアンケート調査では、限られたセグメントを対象に行うと反応が悪くなる傾向にあって、本当の価値が見いだしにくいケースもありました。

ニールセン ニューロによって、無意識下でどのような反応であるかが分かるようになれば、CMにおける訴求テーマのバリエーションが広がると感じました。

ーーニューロマーケティングを自社のマーケティング活動に取り入れていくことについて、これまでの経験や、今後どうすれば活用できるのかなどについてご意見をお聞かせください。

戸村 5年ほど前にニューロマーケティングの導入について検討したことがあったのですが、そのときはコストの面が合わずに断念した経緯があります。

古畑 当社に限らず、ニューロマーケティングの価格は当時と比べて大幅に下がっています。理由は、どれくらいの人数で何を、どう計測すれば必要な精度が得られるのかの経験が積み重なり、コストパフォーマンスが向上しているからです。

当社の場合はそれに加えて、測定設備を自社で保有していますから、設備にかかる費用を固定費として吸収できていることも、コストが下がっている要因のひとつです。

今回は実際のテレビCMの計測でしたが、先ほどお話したようにビデオコンテの状態であったり、さらにその前の商品のコンセプト開発の段階であったりすると、予算として組み込みやすい面があるのではないかと思います。

 以前、販売店の店舗開発を行ったときにニューロマーケティングを活用したことあります。そのときの経験から言いますと、ニューロマーケティングはサイエンスなので、計測・分析結果を分かりやすく説明できれば、プロジェクトに関わる人たちにちゃんと納得してもらえるということです。

店舗開発の現場では、長年にわたって経験を豊富に積んだ方や、販売担当者もプロジェクトに携わっているなどさまざまな人がいます。みなさん、それぞれの経験で培っていたことをベースに話をするので、場合によっては方向性が合致しにくいことがあります。そうしたとき、ニューロマーケティングから得られた知見を援用することで、方向性が定まり、マーチャンダイジングのレベルも上がったように感じました。

さきほども話しましたが、現場も含めて、マーケティングにもっとサイエンスを取り入れる土壌ができていくことで、ニューロマーケティングの活用はさらに進んでいくのではないでしょうか。

ニューロマーケティングの効用が広まることでCM制作の現場に導入しやすくなる

ーー最後に、今回モニターとして参加した感想をお聞かせください。

 ニューロマーケティングについては、本を読んだりセミナーに参加したりしてある程度知っていましたが、今回、脳科学者である辻本さんの専門的な観点からの話にはとても説得力があり、あらたな発見が得られました。

泰地 参加する前は、ニューロマーケティングで分析された指標は理解しにくいのではないかという印象がありましたが、今回参加してみて、とても分かりやすく整理されていると感じました。無意識下でどのような感情なのかなど、今後、自社調査と併せてうまく活用できる方法を検討していきたいです。

戸村 専門家である辻本さんの話は分かりやすく、私自身とてもよく理解できました。ただ、会社に戻ってこの内容を私が話すと、まだ基礎的な情報を持ち合わせていない人も多いので、途端に説得力が弱くなってしまうだろうという懸念があります。

企業のマーケティング部門の責任者クラスの人たちが、今回のように直接、専門家の話を聞く機会があれば、もっと活用が進むのではないかと感じました。

小林 ニューロマーケティングはCMだけでなく、コンセプトやウェブの分野でも使っていけるとわかりました。活用分野が広範囲にわたるので、社内でニューロマーケティングの効用を伝えていきたいと思います。同時に社会的にもニューロマーケティングが効果的であることがもっと浸透していったら、私たちも活用しやすいと思います。

ーー役立つサービスを広めるのはメディアの役割のひとつですので、宣伝会議としても、今回のレポートのみならず、ニューロマーケティングによる成果事例などをしっかりとフォローしていきたいと思います。参加いただいた皆様、どうもありがとうございました。



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ニールセン
www.nielsen.com

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