【前回コラム】「コミュニケーションの世界では、笑いが武器になる。」はこちら
普通の心で考えることについて。
広告はたとえば僕の妻や娘や父や母、そういう一般の人たちにわかってもらえなければ意味がありません。誰も見たことがないすごいアイデアを思いついたとしても、多くの普通の人たちにわかってもらえなければそのアイデアは使い物にならないですよね。
広告と芸術は違います。
ちなみに僕たちは、自分のつくった広告を「作品」とは呼びません。なになにの「仕事」という言い方をします。「作品」ではなく、「広告」をつくっているという意識がだいじだと思っているからです。
僕はもちろん普通の庶民です。だから、広告がつくれるんだと思います。
もし僕が年収5億で豪邸に住んで、というような生活をしていたら、多くの人に共感してもらえるような広告はたぶんつくれません。普通の人間として、普通の心で、おもしろいことを考える。そういう姿勢がたいせつだと思っています。
「上から目線で考えたらあかん。人は広告なんかからえらそうに言われたくないし、上から目線の正論なんか誰も聞きたくない。むしろ、目線の低さがだいじなんや」
そんな意識をつねに持つようにして、仕事をしてきました。
このビジュアルは、関西国際空港が開港したときのテレビCMで、ナレーションは、
貧乏神A「関西も新空港ができて景気ようなったら、わしら貧乏神も住みにくうなりまんなあ」貧乏神B「どないしよう…」貧乏神A「そや、東京でも行こか」SEキーン(飛行機の離陸音)NA+S「関西から元気になろう」S祝 関西国際空港開港
関西さえよければいいんやという、まあ身勝手なCMであります(笑)。
国際空港が開港するときに、こんなCMを流せるのは、世界中を見渡しても関西くらいではないでしょうか。スポンサーは大阪広告協会です。いわゆる関西の財界からの「祝!開港CM」というのがこのときのお題だったのですが、具体的に何をどうメッセージしたらいいのか悩みました。
当時、関空が開港することはテレビや新聞などでさかんに報道されていましたのでCMでわざわざ開港を告知しても仕方ないわけで。またその一方、みんながみんな海外旅行や出張に行くわけでもないので、関西に国際空港ができても「自分には関係ない」と思っている人たちもたくさんいて…。
そういう状況の中で、より多くの人たちに、関空の開港に興味を持ってもらったり、好感をもってもらうためにはどんなCMにするべきなのか…。と考えて、目をつけたのが、「関空ができたら、関西への経済効果は数兆円」などと言われていたことでした(正確な数字は覚えていませんが)。
関空ができても自分には関係ないと思っていた人たちでも、関空ができて景気がよくなって、自分の給料が上がったらウェルカムなはずですもんね。財界からメッセージするテーマとしてもいいんじゃないかということで、「関西から元気になろう」というキーワードをつくり、一般庶民が登場するいくつかのバージョンをつくったんです。
貧乏神まで登場させて目線が低すぎるというご意見もあるかもしれませんが(笑)、このCMはいろんなところで取り上げてもらったし、東京の人たちにも笑っていただき、広告賞もいろいろいただきました。
テレビや新聞などの報道とは違う視点、つまり「庶民としての普通の視点」から考えたからこそ、硬いテーマにも関わらず、親近感を持ってもらえるCMができたんじゃないかと思っています。
ちなみに、このCMは海外の人たちにも受けるんです。
東京VS大阪とか、ロンドンVSパリなどといった都市同士の競争意識は世界中にありますし、景気がよくなることをよろこぶというような「庶民感覚」は万国共通なんだと思います。庶民としての普通の心で考えること、それは世界にもつながっていると思います。