おもちゃ問屋で、吉村作治の気持ちを学ぶ
私も例にもれず独自の仕入ルートの開拓には余念がなかった。とにかく、独創的な売場を作り上げ、お客さまに盛り上がってもらうことに必死だった。そこで私がよく仕入れに行っていたのが浅草橋の問屋街だ。大通り沿いは、時代が数十年止まった状態で、木造バリバリの古い家屋の奥におじいちゃんがいるような問屋さんが何軒もあった。
ノスタルジーというか、自分が生まれる前の世界が広がっており、なんかテーマパークにでも来たような気分だった。天井から無数にぶら下げられたシートには、ポンプを押すと飛び上がる「カエルぴょこぴょこ」やら、なかなか割れないシャボン玉「トラバルーン」などがあり、店の入り口には「スケバン刑事」のヨーヨーがカゴ盛りされていて、新商品のような扱いをされていた。
問屋さんの中に入ると、もうとんでもない量のプラモデルやらボードゲームであふれかえっていて、明らかに壁面の棚には到着できない。
「おじさん、あの辺のやつって、どうやって取るの」
「前のやつ、どかせばいけるけどねえ」
「どかすって、これ、けっこうですよね」
「それしか方法ないでしょ」
聞いた方が間違っていた。昭和はそんなに甘い世界ではなかった。平成に慣れてしまっていた自分が悪い。自分のバカバカバカ。ということで、ホコリだらけの箱をかき分けて、棚までの道を作り奥へ進むと、もう10年以上、誰も触っていないかのようなお宝がいっぱいでてきた。
マジカルバナナゲーム!坂東英二のパッケージ。即買い。イライラ棒、じゃあこいつも。
巨人の桑田貯金箱。なんだこれ、買い。緒方もある。緒方はいいや。
西部警察ゲーム!もはやどんなゲームか思いつかない。
カンガルーのプラモデル!ニーズあるんか?
ご近所づきあいゲーム!「キミはご近所とうまくつきあえるかな~」って…。
プラモデル「江戸風情」!「風情」って、もはやモノではない気がする。
光GENJIのタペストリー「ようこそ~、ここへ~、遊ぼうよパラダイス」。
遊べる本屋だけに、これは店の入り口に飾ろう。
極めつけは、お酌ロボット、しゃくらい君。
ものすごい遅さで動く、確実に自分で取りに行った方が速いと思われる、柿ピーとビールを運んでくれるロボット。ボタンを押すとビールをついでくれて、「最近、仕事どうだ?」など上から目線でおしゃべりもしてくれる機能つき。
他にもあげたらきりがないのだが、一緒に行った店長と、プラモデルに埋もれながらも、お宝を掘り返し、大いにツッコミを入れながらガンガン買い付けしていった。
台車に山積みされたそれらの商品を見て、お店のおじさんは「こんなもんも買ってくれるの」と申し訳なさそうな表情をうかべたが、こちらは、「こいつらを売場にうまいことはめれば面白いコーナーできちゃうぞ」と、ウハウハが止まらなかった。