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街中やショッピングモールの中などで、短期間展開できるポップアップストア。その実施事例を紹介します。
リアルな接点のインパクトをECへの集客に効果的につなげる
「森山ナポリ」は、石川県金沢市にある東茶屋街のすぐそば、「森山」の地で生まれた、EC販売に特化した冷凍ピザブランドだ。海も山も近い土地柄を生かし、地元特産の加賀野菜やシーフードをふんだんに盛り込んだピザを、職人が一つひとつ手作業でつくり、工場直送で販売している。
代表の河村征治さんは、料理人から自身のキャリアをスタートし、飲食店の運営を経験、その後レストラン事業を手掛ける会社の経営にも参画した、食ビジネスのエキスパート。独立した現在では森山ナポリの運営のほか、金沢や東京で8つの飲食店の運営を手掛けている。ルーツが料理人ということもあり、その戦略の起点は常に商品開発にある。「まずは、とにかく美味しいものをつくる。商品の市場性や販路などは考え過ぎず、商品そのものの品質を最も重視しています。会社を立ち上げるより前に、食品工場とパン工場を設立。そこでは、レストランで使うすべてのパンを製造するほか、日々さまざまな新商品の開発に取り組んでいます。森山ナポリもそうして生みだされた、数々の商品の中の一つです」と河村さん。最も技術の高い職人でも1時間につくれるピザは30枚程度。規模ではもちろん、大手に対抗することは難しい。しかし、手作業へのこだわりや、大量に手配するのが難しい食材を使うなど、小さなブランドだからこそできることを大切にしている。
販路としてEC、それも自社ECを選んだのは、工場の規模感に見合った販売目標・月間2万枚を販売するのにちょうど良いと考えたから。これも、ものづくりありきの発想だ。
そうして開設したECは、一見、「冷凍ピザ」の販売サイトであることが分かりにくい。すでに森山ナポリを知っている人向けにデザインされているのだ。Web広告などで一気に集客をかけるより、まずは実際の知り合いに買ってもらい、リピート購入しながら周りの知人・友人にも紹介してもらう。広告販促費が潤沢でない中、そうした広がり方が最も効率が良いと考えた。さらに、他の冷凍ピザ販売サイトによく見られる、「こんなチーズを使っている」「こんな製法でつくっている」といった表現は極力避けている。森山ナポリのブランド訴求の切り口は「用途」。ピザの美味しさを説明するのでなはく、「ホームパーティーなど、大勢の人が集まる場で食べて欲しい」という食用シーンを提案するのだ。「Webサイトやリーフレットといったコミュニケーションツールでも、ピザの詳細な説明より、『森山ナポリのある生活』をイメージしてもらえるようなビジュアル・説明文を意識しています。ライフスタイル提案のようなものです」と河村さん。EC開設から1年で、会員数は全国7000人を突破。一時は生産量が追いつかず、3カ月間販売停止になったこともあった。最近では毎日コンスタントに売れるようになり、工場稼働のために目標とする売上を確保できるようになってきた。
そんな森山ナポリが今年の3月、東京・表参道のイベントスペース「ZeroBase表参道」で展開したポップアップストアは、主に①既存顧客とのリアルな接点をつくる、②新規顧客としてリーチできる層を開拓する、という2つの目的があった。「私の経験上の話ですが、顧客接点がネットだけだと、例えばTwitter、Facebook、Webサイトといった具合に、購入に至るまでに3回は接触する必要があります。しかし、リアルな接点で接触することのインパクトは、ネットで2回、3回接触するのと同等の効果があると感じます。ネットでもリアルでも、1回の接触ですぐ購入してもらえるわけではありませんが、複数の接点の中にリアルな場を組み込むことで、ECの効果的な集客につながると考えました」と話す。
特徴的だったのは、その内容だ。イベント名「祝!北陸新幹線開通 エクスペリエンス石川」にも表現されている通り、北陸新幹線全線開通を約1カ月後に控えたタイミングで、石川県のグルメやアート、伝統工芸といったさまざまなコンテンツを発信する目的があった。主催ブランドの森山ナポリを中心に、九谷焼の湯飲みや金箔コスメ、石川の若手アーティストの作品などが、イベントスペース内にずらりと並んだ。全体監修は、河村さんとかねてから親交があった、NATIVEYE 代表でキュレーターの坂野充学氏が手掛けた。
「森山ナポリは元々、ライフスタイル提案を切り口にブランドを発信し、お客さまを増やしてきました。リアルな接点でも、他のコンテンツと合わせて一つのライフスタイルとして見せていくことで、じわじわとファンを増やしていきたい」。世界観の統一を図るため、コンテンツはある程度、厳選する必要がある。そのためにも、今後も主催ブランドとして、こうした場をつくっていくことが求められると言えそうだ。
商品販売は目的にせず、売上枚数は1日に50枚程度を想定していたが、最終的には1日に200~300枚と予想を上回る反響が得られた。このポップアップストアの開催期間中にECサイトで会員登録をした人の、今後1年間の購買行動を分析することで、こうした催事の効果を測り、次の施策へつなげていきたいと話した。
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