テレビが危うい、「おばさん化」がはじまっている——ビデオにテレビが包含される時代へ

テレビはこれから、ビデオに包含される

それはそれでいいんじゃないか。そんな考え方も成り立つでしょう。むしろ社会全体と一緒に高齢化したほうがビジネス上もいいかもしれない。・・・でもね、5年ぐらいはそれでいいでしょうけど、いまハタチの若者は15年後にはおじさんおばさんです。これからすごいスピードで「テレビに戻らない世代」が人口ピラミッドを侵食していくことになります。

「世帯視聴率をたったひとつの指標」にしておくと、縮小に向かうしかないのです。世帯視聴率は要らない、と言っているのではなく、“世帯視聴率だけ”のシステムが行き詰まっているという話です。もうひとつかふたつ、モノサシが必要なのだと思います。

ところで、この原稿が出る頃には終わってしまいますが、NHK技研公開に行って来ました。世田谷区の砧にあるNHK技術研究所が毎年開催する、最新の放送技術の展示イベントです。

その中で、“あくまで将来こんなことも可能になるのでは”という仮説的な展示がありました。最初から放送画面が表示されるのではなく、放送か録画かをまず選ぶところからはじまります。

展示の説明ボード。あくまで「こういうやり方もあるかも」というひとつの仮説を形にしたもので、NHKがこうすると決めてるわけではない

メニューは「これから」「リアルタイム」「みのがし」の3列。現在過去未来がフラットに並んでいる

ドラマを見ている時にツイッターでサッカーの話が出てきたらURLを押すとチャンネルが切り替わる

タブレットでも選べます。ただし、タブレットの場合はリアルタイムの番組を選ぶと放送ではなくネット経由の同時配信です。

例えばサッカーを見る。見ながらツイッターも表示できます。試合が盛り上がってきたら「この試合すごいぞ!」とつぶやきながらその番組のURLをツイートに入れる。テレビで別の番組を観ていた友人がそれを見てクリックすると、テレビがサッカーに変わって観戦しはじめる。そんなことも可能だという展示でした。

ここには3つのポイントがあります。

ひとつは、いつでもどこでもテレビが視聴できる点。スマホやタブレットでも、放送と同時にネット配信で見られるようになったら、スマホ中心に生活している若者たちにとってテレビがずいぶん違って見えるのではないでしょうか。彼らは意外にYouTubeなどで番組映像に接しています。うちの息子もテレビを見ていないのにラッスンゴレライを知っています。ネット上で接しているからです。

それから、リアルタイムの番組も、ちょっと前の番組も、フラットに選べる点。放送は“いまこの瞬間に放送されている中に見たいものがあるかどうか”というシステムです。選択肢が狭い。でも、一週間分くらいの中から選べるなら、見たいものはあるかもしれません。これを放送と並列にしてしまう。そういう便利さが大事なのではないでしょうか。

もうひとつは、番組をシェアできる点。友だちが何やら番組を見て盛り上がっている時、パッとシェアできてパッとその番組を見はじめることができる。その操作はテレビとスマホ・タブレットで交錯できる。そういう使い勝手が必要ですね。シェアできるということは、スマホ生活のタイムライン上に番組が登場できる、ということです。タイムラインに乗ることができれば、若者たちとの接点が生まれます。

この展示には勝手に啓示めいたものを感じました。あるべき姿が、ここにあるのではないか。縮小に向かっているテレビが、生まれ変わって新たに生きる姿なのではないか。

これはもうテレビではない、テレビという言葉では括れない。テレビというよりビデオととらえるべきだ。

テレビというのは不思議な言葉で、いわゆる和製英語です。でもそこには、テレビ局が作った映像を、テレビ電波を通して、テレビ受像機で受信する、そんな多層的な意味が付与されています。それから元の英語はtele(遠い)+vision(映像)の造語ですから、遠くに映像を送るシステムのことです。つまりテレビ=放送なんです。

技研公開の展示では、放送と録画が並んでいました。どちらも映像つまりビデオです。そこにこれまでの放送の生きる道があります。放送は映像の一部だよ。そこに、これまで放送に携わっていた人びとの関わり方も見えてきます。さらにそこに新しい広告の有り様が成立すれば、新しいエコシステムが見えてくるでしょう。

テレビから、ビデオになる。テレビはこれから、ビデオに包含される。そう考えると、何か見えてくるものがないでしょうか。

そこまで考えてなかったのですが、この連載は「ビデオコミュニケーションの21世紀」とつけました。ビデオなのです。テレビではもうない。そんな視点で、また連載をはじめたいと思います。

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境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

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