登壇者
- フィリップスエレクトロニクスジャパン ライティング事業部マーケティングマネジメント 久保 徳次 氏
- ユニリーバジャパン マーケティングディレクター スキン&メールグルーミング 東浜 文哉 氏
- JAPAN CMO CLUB CMO / セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 マーケティングディレクター 加藤 希尊 氏
−−2014年11月に「JAPAN CMO CLUB」が発足して半年が経ちました。
加藤:いま、多くのマーケターが、マーケティング業務のサイロ化という課題に直面しています。社内はもとより、他企業との連携もほとんどない状態です。そこで、企業の壁を越えて、マーケター同士のネットワークを広げる仕組みとしてJAPAN CMO CLUBを立ち上げました。現在、月1回のペースで複数社のマーケターをお招きし、研究会を開催しています。ゆくゆくは、この会を中心に日本のマーケターの集合知を形成し、ブランド間のコラボレーションを生みだすというビジョンを持っています。マーケターの方に、「カスタマージャーニーを考えるうえで、自社とお客さまの最も重要な接点は何ですか?」という質問をすると、その企業のビジネスやブランドの核となるものが見えてきます。そこで本講演では、「クロスブランドのカスタマージャーニーを考える」をテーマに掲げました。
−−久保さんと東浜さんが、いま直面されているマーケティング上の課題とは?
久保:フィリップスのLED電球「hue(ヒュー)」は発売から約2年が経ちますが、まだ認知が十分に広がっているとは言えません。ヒューは一見ただのLED電球に見えますが、インターネットに接続することで、外出先から家の灯りをつけたり、アプリを使って電球の色を1600万色の中から選んで変えることができたりと、これまでにないさまざまな機能を持ち、ユーザー一人ひとりのニーズに合わせた空間演出、生活環境づくりができます。そうした多様な機能・提供価値を、いかに伝えていくかが課題だと感じています。
東浜:私はパーソナルケアブランドのダヴ、男性用化粧品ブランドのアックスなどを担当していますが、コモディティ化しつつある市場で差別化が難しい。消費者の生活の文脈を捉えたうえで、ユニリーバの商品やサービスを重要なものと位置付けていただけるような、新しい価値の創造が不可欠です。また、コミュニケーションの接点を再構築することも急務だと感じています。これまでは全方位、多くのタッチポイントで顧客に接触することを試みてきたため、コミュニケーションのリーチが浅くなり、ブランドが意図したメッセージが届かなくなりつつあります。近年は、より深いコミュニケーションを図るべく、タッチポイントを絞り込む方向にシフトしています。
加藤:メディアの多様化により、一つひとつのタッチポイントの希薄化が進んでおり、たしかにコミュニケーションは浅くなる傾向にあります。しかし、商品・ブランドごとのカスタマージャーニーの基本は変わりません。いま一度カスタマージャーニーに立ち返り、費用対効果が上がるようなチャネルやコンテンツを選択し、投資していくことが重要です。
久保:ヒューは3個セットが約2万6000円で販売されています。インターネットと接続することで、さまざまなサービスを提供することができますが、電気店で販売されている1個1000円のLED電球との違いは、説明抜きには伝わりません。そこで、まずは、インターネットに接続によって得られる価値を直感で理解できる方々にアプローチし、そこから徐々に認知を拡大していこうと考えました。プログラマーやデザイナーを集めたハッカソンを複数回にわたって開催し、ヒューの機能を追加する新しいアプリを制作してもらったところ、現在ではIoT(Internet of things)の代表格として認知されるようになってきました。
加藤:差別化が難しいLEDライトを、製品を買った後のプロセスで差別化しているのが非常に面白いですね。ヒューのAPIを公開したことで、世界中の企業がヒューとつながるアプリを開発できるわけです。例えば、スーパーマーケットがアプリでヒューとつながれば、ユーザーデータを元にベストなタイミングでメッセージを発信することもできるのではないでしょうか。
久保:すでに、欧米では実現しています。一つひとつのヒューにIPアドレスがあり、インターネットに接続されているので、ユーザーの承諾さえ得られれば、「いま、どこに、どのユーザーがいるのか」が特定できるのです。ユーザーに合わせて最適なサービスを届ける仕組みは、すでに海外ではスタンダードになり始めています。
東浜:ダヴのような日用品は、約60%の人が店頭でブランド選択するため、店頭が非常に重要なタッチポイントです。ブランド選択にかける時間は30秒~3分と非常に短い。そうした瞬間的なコミュニケーションを、当社では、①店頭で立ち止まり(STOP)、ブランドに気づく、②他ブランドと比較検討をする(STAY)、③購入の後押しをする(SELL)、の3段階に分けてデザインしています。その一方で、動画を使ったコミュニケーション活動にも力を入れています。4月初めにグローバルで公開した動画「Choose Beautiful(美しいを選ぼう)」は、1週間ですでに再生回数300万回を超えています。これは製品を購入してもらうことが目的ではなく、動画に共感していただき、ブランドを記憶に残していただくこと、またブランドロイヤリティの醸成を目的とした長期的な関係構築の取り組みです。広告クリエイティブでは、日本独自のブランドメッセージビデオと、全世界一斉に展開するメッセージビデオがあるので、社内組織もローカルコミュニケーション専門の組織と、グローバルキャンペーンを進める組織との両輪で回しています。