先日、こんなことがありました。ふだんは一般の記事を書いているライターさんに、ある商品の記事広告を書いてもらった時のこと。「いつも通りの記事の感じで書いてみて」と念を押したにもかかわらず、いつもの舌鋒鋭い書きっぷりが影を潜め、とたんにお店の売り子さんかメーカーパンフレットのようなコピーになってしまうのです。そのライターは、「広告」と意識すると、記事を書くのとは違うスイッチが入ってしまって、「自分」が書いている感じじゃなくなる…と言っていました。
つまり、いわゆる「広告」のコピーは書き手の主体を出しにくい(受け手にとっては見えにくい)。コピーライターはいつも黒子です。個人的な想いや主張を表に出しません。商品やクライアントのために、いつもニコニコと挨拶のようなフレーズを繰り返すあまり、広告コピーから「リアルさ」が消え、受け手を白けさせてしまったんじゃなかろうか?キャリアのあるコピーライターほど、自分を「隠し」ながら、相手をその気にさせる言葉を巧みに操るのかもしれないけど、消費者たちに、実はもう見透かされているんじゃないのか?
リアルとは本来、「現実」「実在」「本物」「本当」「真実」…といった意味ですが、読み手にとっては、それに加えて、その情報が自分自身に関係がありそうか? 役立ちそうか? 信憑性はあるか?…なども含みます。読み手は、それらを瞬時に峻別して、自分が「読む」かどうかを判断しているのです。
もう一つ、リアルさを左右する大事な要素が、発信者のキャラクターや言い回しなどによって測られる「本気度」です。小泉純一郎元首相が、政治家らしくない「自分」の言葉で話したら注目される。元教師のコメンテーターが、教育者らしからぬオネェ言葉で話したら親しみを感じる。コンビニのオバちゃん店員のマニュアルっぽくないお喋りが子供たちに人気…。常態化された環境に染まらず、発信者本来のオリジナルな話し方をしてこそ「本気」は伝わるのです。「広告っぽい」広告が溢れる中で、コピーの書き手は、もっと自分を前に出して正直に想いを綴っていいと思います。
ただし、それには書き手が商品を勉強しなくてはなりません。クライアントになり変わって書くにしても、商品を売る言葉の請負人として、コピーライターは商品に対する「個人的な感想」を持つべきです。メーカーを直接取材して、自分で使ってみて、誰よりも商品のことを知る。これもコピーライターの仕事です。その上で、商品の「何」を書くのかを自分で決める。本音を隠すのではなく、赤裸々に自分の言葉で書く――
そして最後に、「どう」書くか? …これについては、僕がいつも意識している言葉がありますので、それをご紹介したいと思います。劇作家の井上ひさしさんが生前によくおっしゃっていた言葉です。
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」
井上さんが亡くなった後に、色々な場面で引用されるようになりましたが、まさに、人に読んでもらう文章を書くときに心がけるべきことをいい得てるなぁと感じます。井上さんは、これを広告コピーを書くために残してくださったわけではありませんが、コピーこそ、これを念頭に書く…ことができれば、広告はもっともっと「ゆかい」に成長できると思います。
これまで全24回にわたって、お付き合いいただきまして本当にありがとうございました。皆さまのお仕事にほんの少しでも役に立てたなら幸甚です。
(了)
▼向田さんが講師を務める「コピーライター養成講座 ボディコピー特訓コース」詳細はこちら