〈広く告げる〉をやめた「広告」の新しい形とは?(後編)——東浩紀×須田和博(博報堂)×廣田周作(電通)

マーケットのスケールを限定することで共有コンテクストが決められる

須田:『使ってもらえる広告』の最終章を書いていて気づいた、「新しい普遍」という自分のテーマがありまして、人間にとって昔から変わらない「普遍的なもの」を、「最新の技術や手法」で新しくできれば、それはメディアや時代がいかに変わっても、広告として効くのだ!と思っていました。だけど、それをポルノだと言われたのは、非常に新鮮な気づきでした。効果を最大限出すという意味では、そうしたことも必要ですが、やはりポルノ的なもので終わらないものとは何か?を考えないといけないなと思います。

東:僕は須田さんの著書も読ませてもらい、須田さんのやっていることがそういうものではないのは、よくわかります。ただ、例えが悪いのかもしれないですが、みんなに喜んでもらうことはポルノと似ていると思うんですよね。ポルノは人のクリエイティビティを限定することでもあるし、そこには対話の可能性がない。対話によって動かない表現というのは、クリエイティビティの可能性も少ないと思うんです。世の中は話し合うことでどうにかなるものとそうでないものがありますが、対話の可能性があるものにこそ、クリエイティビティの可能性がある。そうでなければ、クリエイティビティは、ひたすら、もともとある趣味嗜好に奉仕するだけになってしまう。

須田:その危険性の指摘は、すごくよくわかりますね。自分がズルいのは、プロの広告職人として、それをうまく「さじ加減」して利用しているところにあるのかもしれない。僕は今、次世代型のクリエイティブを開発する社内横断プロジェクト「スダラボ」というものをやっています。当たり前ですけど、広告会社は好き勝手に広告をつくれるわけではなく、そこにある種の速度と可能性の限界を感じていたんです。ラボは、クライアント側にすべての裁量権があるオリエンとかプレゼンといった枠をどう越えるか?というのが一つのテーマで、勝手にやっていい環境があれば、もっと新しい何かができるかも!と考え、つくったものです。そうした中で、単なる「使ってもらえる広告」を越えるものができれば、すばらしいと思います。

電通 コミュニケーション・デザイナー
廣田 周作 氏

廣田:僕が今日、東さんと須田さんの話から気づいたのは、クリエイターのセンスは、インサイトの解像度なのかもしれないということです。普段、僕らは、ターゲットの人たちは、きっとこういう気持ちを持っているはずだよね?という洞察をもとにコミュニケーションの戦略を考えますが、今日の話の中で発見だったのは、あらかじめ市場のスケールを限定して考えると、その市場のスケールに基づいたインサイトが必要になるんだということでした。例えば、日常的に渋谷にくる人たちにとって受けるインサイトはその解像度に基づいてつくられていて、一方で、世界中の人に受けるものは、人間の生理的なものや、誰しもが思う「子どもってかわいいよね」とか、そういうレベルのインサイトになってくる。それが市場の規模によって変わってくるのだなとわかりました。グローバルで賞を獲るなら、それに応じたインサイトの解像度が必要で、全人類がわかるものをつくるしかない。やはりまずはスケールを決めて、その上でインサイトを探るというのが重要なんですね。

東:それは、今、人々が求められているものがどれだけわかるか、ということとも関係していると思うんです。今は時代に寄り添うものが何かということが明確になってしまっており、それはビジネスでも表現においても、あてはまります。だからこそ、つくっている人の立場が問われざるを得ない状況にある。そういう中で、例え敗北的で後退的に見えたとしても、マーケットを限定することが大事だというのは、僕なりの一つの結論です。

須田:確かに、僕らの仕事も、無意識に案件によってスケールを変えているのかもしれません。全世界の人が“いいね!”と思ってくれそうな企画を考える時もあれば、ある一部の人に受け入れられれば良いというものもあります。今日の話を通じて、「使ってもらえる」ということに奉仕しすぎてしまうと、ユーザーも腐敗していってしまうという側面を再確認しました。

東:大事なのは、市場そのものの性質を変えるような動きだと思うんです。最後に、広告会社の人にも参考になるかもしれない話をしますと、ゲンロンカフェがある程度うまくっているのは、実は動画での放送があるからです。これはやってみて初めてわかった発見なのですが、トークイベントには、来場して聴く人とは別に、何か作業しながら聴くというラジオのような消費スタイルがある。だから、それを動画で販売することには需要があります。うちのもっている数字から判断するに、一定程度の知名度がある著者の場合は、コンテンツを書籍としてまとめて売るよりも、対談自体を中継して、それを生中継やタイムシフトなどの動画で売る方が儲かるんじゃないかと思います。しかも今の時代は、書籍では広がりにくく、一方で動画は成長市場なわけです。ビジネスチャンスだと思うんですけど、出版社をはじめメディアの人は、そうした話をしても全然響かないんですよね。知的な商品は書籍だけだと決めつけてしまっている。

廣田:それは新しい発想ですね。

東:トークイベントのマネタイズを考えている方は、ぜひ僕にご相談を!(笑)



東浩紀(あずま・ひろき)
1971年生まれ。東京都出身。哲学者・作家。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。株式会社ゲンロン代表、同社発行『思想地図β』編集長。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社、第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(講談社)、『弱いつながり』(幻冬舎)など多数。

須田和博(すだ・かずひろ)
博報堂 iディレクション局 シニアクリエイティブディレクター。1990年、多摩美術大学グラフィックデザイン科を卒業し、博報堂に入社。アートディレクター、CMプランナーを経て、2005年よりインタラクティブ領域へ。2014年、同社のデジタル領域・ダイレクト領域などに強みを持つ社内クリエイターを集め、次世代型クリエイティブを開発する社内横断プロジェクト「スダラボ」を発足。著書に『使ってもらえる広告』(アスキー新書)。

廣田周作(ひろた・しゅうさく)
電通 コミュニケーション・デザイナー。電通に入社後、ビッグデータ解析などを専門としリサーチャーとしてのキャリアを積む。2011年から、プランナーへ転向し、次世代のプランナーを育成するチーム「電通モダン・コミュニケーション・ラボ」を主宰。主にデジタル領域を中心に、様々な企業の事業のコンサルティングやコミュニケーション戦略の立案に従事する。著書に『SHARED VISION』(宣伝会議)。

<画像提供元:ゲンロンカフェ>

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