ペプシネックスゼロ・桃太郎のCMは「クリエイターとクライアントが同じ夢を見た」からできた【前編】(ゲスト:多田琢さん)

クリエイターとクライアントが同じ夢を見ること

多田:それがすごく意外で。小田桐さんはクライアントと闘って表現をする人、クライアントの言うなりになるな、という人なんだと思っていたから。そうではなくて、「クライアントと企まなければよい広告はできませんよ」と言われて、「えーっ」と思った。

ちょうどその頃、キヤノンの仕事をしていたんです。電通に入社した時は営業職で、7年間キヤノンを担当していて、ずっと一緒にカメラの宣伝をやっていた同期のような存在がキヤノンの社員にいた。その人がどんどん偉くなって、「また一緒にやろうよ」と声をかけてくれたんです。その時に「小田桐さんに言われた通り、これはクライアントと企めるのではないか」と思った。

その人と「こんなことをやれたらいいよね」、「カメラの広告はこういうことをやるべきだよね」と話をしていたら、「まさに、そうだよね」と話が進んで。実際に広告ができた時に初めて「こういうことか」と腑に落ちた。その次がトヨタのハリアーで、トヨタの人からは「プレゼンをしてもらって、ダメで再プレという流れではなくて、一緒に話をしてつくりたい」と言われて、それもクライアントと企みながらつくることができて。

サントリーもそういう会社ですよね。サントリーが特殊なのは「クリエイターもクライアントも同じゴールを見てやりましょう」とみんなが言うところ。さらに、ペプシに関しては「一緒の夢を見ましょう」と。それがペプシのCMがあの形になった理由だと思う。

だから、企画がすごいということではないと思う。広告でここまでできるかということを本当に一回夢見て、それを諦めないでやり切ってみようと。「やり切っていいですよ」という環境がなければ、このCMは生まれなかった。そこが一番大きいと思う。

澤本:ペプシのCMもそうですが、多田さんが手がけられている他のCMも、普通のプレゼンで通っていくようなものではないですよね?

多田:CMはコンテにした時点で、もう前例があったものと同然だよね。「想像の範囲ですね」という。世界観がコンテの紙の中になんて入るわけがない。コンテにはならないけど、最終的なイメージをいろんな方法でプレゼンできる環境があるかどうか。それも大事。

澤本:プレゼンでいうと、僕らは最近は「この企画がいいのはこういう理由だ」と説得にかかりますよね。前段があって、だからこの作戦でやりましょうと。すると、表現のプレゼンというよりは、戦略を出している中の一環で表現になってしまっている。だから、ロジカルすぎて面白くないと思う部分がある。ペプシのCMはロジカルでもあるけど、クライアントも一緒に大きいことをやろうと思わなければ実現できないから+、どうやって通ったんだろうと思っていたんです。

多田:最初、サントリーのオリエンシートに「テーマはジャイアントキリングです」と書いてあって、「最高だな」と思った。ジャイアントキリングって、知ってる?モーニングのサッカー漫画で、最高に面白い。前からこの漫画を読んでいて、その「ジャイアントキリング」って言葉(編集部注:「番狂わせ」「大物食い」の意。格上の相手に対して格下のプレイヤーが勝利した時に使う)が大好きで。すごくワクワクするなと。あのCMは、CM中にペプシを飲んでいるわけではないから、ペプシ以外でもできると言えばできる。だけど、商品が持っている根っこの部分の志とか、それを出そうとする企業の心構えや覚悟。そういうものが表現に結びついていれば、商品のことを言う、言わないではないところで、すごい広告になるんだと思った。

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