CM楽曲は、200曲の中から「これしかない」と選ばれた
澤本:確かACCのパーティーで、サントリーの方が「CMが完成した時に泣きそうになった」と言っていました。クライアントがCMの試写で泣きそうになるということは、本当に自分が参加してつくっているということですよね。それはすごいことだし、素敵な仕事だと思います。
多田:ペプシが持っている、「強い者を倒す」という挑戦はわかりやすい。それが大きいと思う。クライアント含め、みんなが持っていたイメージが大きく違わなかったから、そこは恵まれていました。最後まで自分とクライアントが思っていることが違うと、幸せな結果には絶対にならないから。
澤本:多田さんの頭の中には、演出や役者、桃太郎のいでたちなど「このスタイルでやればいける」というのは最初からあったんですか?
多田:桃太郎だけは日本人で、あとは日本人じゃないほうがいいというのはありました。文章で書くのではなく、イメージに合う映像を編集して、全体のイメージをまずは映像でつくっていって。それをクライアントにプレゼンして、ディレクターにも見せて。世界観に関しては、自分1人の中から出るものには限界があるから、井口浩一くんに監督を頼もうと。
以前仕事を一緒にした時に、井口くんはキャラクターデザインのつくり方が本当に面白いと感じたんです。井口くんには「思い切ってやっていいから、全力で自分の好きなもので、好きな感じでデザインやキャラクター設定を考えて」と話をしました。俺は絵を描かないけど、犬、キジ、猿は化け物というか、犬そのものじゃなくて人間なので、コスチュームで犬に見えるようにしてほしい、と。もしかしたら、それはパリコレで歩けるようなものかもしれないとか。
あと、ロケ地はこだわりたい、昼間に撮影したいと伝えました。夜に撮影して、CGでごまかしたような映像とか、ゲームソフトのCMみたいなものにはしないで、クリアでパキーンとした空気の中で鬼がリアルに現れる、そういう映像の表現にしたいねと。井口くんも「わかりました、(そういう感じは)僕も好きですよ」と言ってくれて。2人で話をしながら、つくり上げたイメージを、彼が具体化していった感じです。
澤本:桃太郎なのに、全く異種なものに見えてすごくよかった。音楽もいいですよね。
多田:200曲ぐらい聴いたと思います。撮影する前に曲を決めないと間に合わないスケジュールで。Vコンテや撮る映像のイメージをつくって、そこに重ねていきました。やる前は、曲は何でもかっこよくなると思っていて、そんなに苦労しないと思っていたんですよ。でも、やってみたら全く合わない。いいと思うのが全然なくて、ちょっと前の感じは古いねとか、ダークになりすぎちゃうとか。井口くんがいいと思っても、俺が微妙、俺がいいと思っても、井口くんが微妙と。2人がいいと思ったのが本当に200分の1の確率で今の『The Heavy』しかなかった。曲がダーンダーン♪と始まった時に、「これは北島三郎なんじゃないか」って。
一同:笑
権八:『まつり』ですよね(笑)。
多田:『まつり』からここまで行くのがすごいなと(笑)。曲がロックだと、「桃太郎なのに、なぜロックなの?」というのがあるし、クラシックは荘厳だけど行儀正しくなってしまう。『The Heavy』は“洋風桃太郎”じゃないけど、ロックの中にサブちゃんがいるみたいな感じがして(笑)。