【前回コラム】「私たちは、良い広告を作るだけでなく、広告自体を人々にとって良いものにするための努力をすべき」はこちら
前回のコラムでは、ネイティブアドも含めた全ての広告が、人々にとって良いものにするための努力をするべきではないかというシンディ・ギャロップ氏の問題提起をご紹介しました。
個人的にネイティブアドの未来のあるべき姿を考える際に、マスメディアにおけるネイティブアドの成功事例として参考にするべきと考えているのが、TBSのドラマ「リアル脱出ゲームTV」を舞台に実施された日産自動車の「史上最難関の採用試験 THE TEST」という事例です。
リアル脱出ゲームTVは、もとは深夜の特別番組として放送された視聴者参加型のドラマで、4回の特別番組の放映を経て、2014年の4月にはレギュラー番組としての放映が実施されました。このレギュラー番組と連動した企画として実施されたのが「NISSAN×リアル脱出ゲームTV 史上最難関の採用試験 THE TEST」と題された日産自動車によるスポンサー企画です。
リアル脱出ゲームTVでは、ドラマ中に展開されるクイズに対して、視聴者もリアルタイムに参加できる構造になっているのが特長で、視聴者はPCやスマートフォン、タブレットなどの端末から自らもクイズに参加しながらドラマを楽しむ作りになっています。
日産自動車は、このリアル脱出ゲームTVのドラマと並行する形で、視聴者向けにクイズを出題。クイズを勝ち抜いた優勝者には、商品として日産自動車のコンパクトカー「NOTE」が提供されるだけでなく、連続ドラマの最終回に出演することができる権利もプレゼントされるという企画になっていました。
ある意味、視聴者参加型のクイズ番組と考えれば、それほど物珍しくなく感じる人もいるかもしれませんが、個人的に番組を視聴していて印象的だったのはその企画サイトへの誘導方法です。日産自動車は、ドラマの間に流れるテレビCMとして、ドラマの出演者が出るドラマ専用のCMをTBSと共に制作して放映したのです。
通常ドラマにおけるテレビCM枠はトイレタイムと揶揄されることも多いですし、録画視聴する視聴者からするとスキップをする対象でしかないと言われることも多くなりました。
これが、リアル脱出ゲームTVにおいては、視聴者はリアルタイムでのクイズ回答を前提としているため、当然生で視聴するのが基本。しかも、ドラマで展開されるクイズに解答するためにPCやスマホを開いた状態で視聴をしているわけで、ドラマの登場人物が出ているテレビCMによって日産自動車の企画サイトに誘導されることに違和感を感じる視聴者は少なかったと容易に想像できます。
通常のテレビCMが、視聴者の見ているドラマとは全く脈絡の無いものが流れるのが普通であることを考えると、この日産自動車のテレビCMは視聴者にとってはまさに「ネイティブな広告」として受け止められたはずです。