【前回のコラム】「広告はデジタルによって迷惑メールになるか、それとも執事になるか?」はこちら
売上総利益で会社の付加価値を見極める
マーケターであれば自社の財務諸表の意味を理解しているのは当たり前ですが、競合のブランドやそれ以外の業界も含めて、じっくり眺めて、その数字の持つ意味について考えたことはありますか?
経営者が財務諸表を気にする理由の一つは、株主や投資家のためだけではなく、企業にとっての健康診断として自社の状況を見極めるためです。
財務諸表の簡単な点だけを見てみても、あなたが所属している業界やビジネスがブルーオーシャンなのか、レッドオーシャンなのかが判断できます。それは楠木建氏風に言えば、常夏のハワイなのか、それとも極寒のシベリアなのかがわかるということです。たいていはグロスマージン(売上総利益)の利益率で判断できます。
この利益率の大きさは、そのビジネスがどれだけ付加価値を生み出しているかという点を表しています。相対的に製造業が高く、流通業が低いのは、その付加価値の差です。原材料から完成品をつくるのと、完成品を店舗で売ることの違いはわかるでしょう。この差が利益となって数字に表現されるわけです。これは買う人の立場で考えれば、さらにわかりやすくなります。消費者はいくら安いからといって原材料を自分で買って加工して製品をつくるのと、店舗を通さずに製造業の工場から直接完成品を買うのでは、どちらにお金を高く払いたいでしょうか。この差がグロスマージンの差に表れていると言えます。
付加価値の重要性は、ビジネスモデル全体にも言えることで、当然マーケティングについても例外ではありません。かつてスティーブ・ジョブズは「マーケティングとは価値(values)についてのものである」という名言を残しました。マーケティングで考えるべき消費者像をもとに、彼らが価値を見出すものを特定し、それをレバレッジするために企業が価値を提供する、という仕組みは普遍的なものです。製造業が完成品をつくることと同様に、マーケティングもデザインやパッケージング、広告、流通先、サービスなどの全体において価値を付加していかなければいけません。消費者が対価を支払うということは、お金に限らず、行動や知識も含めて、価値を納得しそれ相応の交換をしているのです。
しかし、混同してはいけないのは、付加価値はいわゆる競争優位性や差別性とは違うということです。他と違っている、他より優れていることは、必ずしも付加価値をもたらすわけではありません。この点を考えるのに最適な思考実験があります。それはリチャード・ルメルト氏が著書『良い戦略、悪い戦略』で紹介しているシルバーマシン問題です。