その企画は、本当に自分が面白いと思うものになっているか?(ゲスト:多田琢さん)【後編】

権八さんが新入社員時代に書いた「多田さん分析」

中村:多田さんはCMをつくるとき、どんな面白さをCMの世界に持ち込もうとしているんですか? 前にゲストでワトソン・クリックの山崎隆明さんがいらした時は「音にこだわる」とか、色々なこだわりの話がありましたが。

多田:考え方としてはずっと昔から変わってない。お題となる商品や企業があって、その商品の「自分が一番見たい理想のCM」をつくるという感じかな。

面白い表現をこの商品に無理矢理くっつけよう、ではなくて、その商品だったらこんなCMを見たら俺はすごいワクワクするとか。そういうものを何となく設定して、そこに合うかどうかを自分で判断していく。この商品で、そんなCMは見たくないとか。面白いかもしれないけど、この商品の広告としては俺が見てもグッと来ないとか。

中村:自分の中で判断していくと。

多田:それはずっと変わらない。だけど、その商品の理想の広告として見たいものが今はこうだけど、昔はこうだったというのはあるから、時代によって変わる。でも、その考え方は変わってない。そこでグッと来ないと面白いCMだと自分で思えないかもしれない。

澤本:前に多田さんとお話した時に、「自分で面白いと思っているかどうかがすごいポイントだ」とおっしゃってましたね。白土(謙二)さんのところでいっぱいコンテを描いたけど、白土さんがいいと言わなかったと。

多田:俺がまだ新入社員というか、CMプランナーの新人の頃に白土さんに認められようとして、毎日50案ぐらい企画を持って行ったんだけど、全然何も言ってくれなくて。1週間ぐらいしてから「多田くんはどれが面白いと自分で思っているの?」と聞かれて、ひとつもないやと(笑)。それに自分でビックリしちゃって。自分で面白いという評価基準があっていいんだということをその時初めて知って、目からウロコだった。

中村:多田さんは営業をやられていた期間が結構長いですよね。7、8年。なので、クライアントさんのほうを見て、企画をつくるというマインドがあったんじゃないですか。

多田:クライアントだったり、CDだったり。ある種の障害物競走じゃないけど、どうやったらきれいに跳べるかみたいなことが広告でうまくいくことなのではないか。という風に思っていた。でも、意外と自分の好みって大事だなと思ったね。

権八:僕が今、カバンからおもむろに出したのは、新入社員時代の研修の冊子です。僕は98年電通入社なんですけど、その時のメンタートレーナーの赤石さんという方に、「自分が好きなCMプランナーを10人選んで、その人について分析しろ」と言われて作ったもので。今の話、まさに多田さんは昔から言っていることが変わってなくて。僕がリスペクトしているのはしょっちゅうお伝えしていますが、一番好きなプランナーですので、この冊子にも多田さんのことが書いてあります。今読むと本当に生意気なことを言っていますが。

澤本:うわ、すごい。

中村:分厚いレポートを。すごいちゃんとした冊子ですね。

権八:いえいえ。時代が現れていますよね、切り貼りですからね。多田さんのところを見ると、多田さんがまだ若い。これはたぶんTCC年鑑かな。新入社員の僕が書いたことなので内容は許してください(笑)。多田さんのCMを見て、すごいと思ったという話がバーッと書いてあって、誤解を覚悟で言ってしまえば、「それは僕らのCMだった」という言い方をしているわけですね。

なぜ、「僕らのCM」かと言うと、僕らが普段面白がっているような感覚が出ているという意味の「僕ら」というのと、もう1つは今、多田さんがおっしゃった話なんです。ちょっと読みますね、生意気ですが。

権八さんが1998年に作成した新入社員時代の研修冊子より

「僕らのCM」というのにはもう1つの理由がある。多田さんは「自分が面白いというものだけをつくっている」と言う。そのことはビンビンに伝わってくる。今、自分はこんなことを面白がっているんだというのが伝わってくる。そして、僕は思うのである。自分にとって一体、今何が一番面白いのか、それをちゃんと追求していっていいんだなと。なにがし風であったり、なんとか系であったりしない。本当に自分の中にある、形にされるのを待っている「自分だけの面白さ」を探り当てるという作業をしていいんだなと。僕らが望んでいる、一番やりたいことというのはそれであって、それをするためだけにこの場所にやって来たようなものだ。だから、「僕らのCM」なんだ。僕たちがイメージする生き様がドンズバでそこにあるからだ。

澤本:いい。いい話だよ。

権八:新入社員ながら、勝手に無断で分析していたんですね。

次ページ 「CMには作り手の色が出る」へ続く

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