クライアント3.0へ向けて@カンヌ。−−佐藤達郎

【執筆】

佐藤達郎(多摩美術大学教授)

欧米の広告主は、急速に変化している!?

カンヌライオンズを始め、海外のカンファレンスに参加する機会が多いのですが、そこでヒシヒシと感じることが、ユニリーバー、P&G、ハイネケンといった名だたるグローバル・ブランドのクライアント側(広告主側)が、物凄い勢いで変化しているということです。

もちろん日本企業の広告主の方々も素晴らしく優秀で、必死に努力をされている。それはよく存じ上げています。しかし、日本文化特有の伝統重視型のカルチャーの中で、少し遅れを取っているのではないか?そんな懸念を漠然と抱いているのが現状です。

マーケティング3.0の時代なのであれば、エージェンシー3.0はもちろん必要ですが、それと対を成す形として、クライアント3.0もまた必要でしょう。

というわけで、今回のカンヌライオンズ2015では、クライント(広告主)が登壇するものを中心にセミナーを聞いたので、それについて速報的にレポートしてみたいと思います。

CMOパネルディスカッションでウェイク・アップ!

今回興味深かったのは、エコノミスト誌が主催し、毎朝10時30分~11時30分、カンヌライオンズ・ビーチと名付けられたビーチ脇の特設スペースで開催されたCMOパネルディスカッション。毎朝3人の有名グローバル・ブランドのCMO(あるいは相当する役職の人)が招かれ、クリエイティビティと広告コミュニケーションについて語り合いました。

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スライドもなく、早口でそれぞれにクセのある英語でのディスカッション。おまけに”素敵な”波の音まで耳に入って来るので、聞き取るのはなかなかに大変だったのですが、内容は示唆に富むものでした。

CMOたちの発言の幾つかをご紹介しましょう。

「素晴らしい広告を作るのは、クライアントの役目であり使命。そのためには、クライアントが中心にいて、リーダーシップを発揮すること。そのやり方は、ベストな才能を集め、ベストな提案をしてもらい、そしてYESと言うことだ」(P&G)「知ってること、やったことのあることを、やるな。知らないこと、やったことのないことを、試せ。」(クロレッツ&ホールズ)、「変化は人を不安にさせる。それは人間の本性だ。しかし世界は物凄い勢いで動いている。誰もそこから逃がれることは出来ない」(ハイネケン)、「いろいろと新しいやり方を試している。エージェンシーの従来のプロセスに付き合うヒマを、私は持ち合わせていない」(マクドナルド)。
 

変化とクリエイティビティをエンブレイス(積極的に受け入れる)しよう!

メイン会場で行われたセミナーでも、ユニリーバー、ハイネケン、ジョニーウォーカー、ハーシーズなどのCMOクラスが登壇し、熱いスピーチを繰り広げました。

総じて言えるのは、ここカンヌでは、偉い人ほど「変化を認め受け入れ積極的に活用しよう」と発言する、ということ。Embrace (抱きしめる、積極的に受け入れる)という言い方で、エンブレイス・ザ・チェンジと言った発言を繰り返していました。

それに対して、日本企業の広告主側は、偉い人ほど「変化しないモノの中にこそ本質がある」という物言いをする、という印象を僕は持っています。

もちろん、例えばハイネケンのCMOは、「マーケティングの本質は変わらない」と発言していましたが、同時に「世界は物凄い勢いで変化している」と繰り返し発言していました。つまり、「本質は変わらない」というのは、顧客接点やアプローチの仕方では多くのチャレンジをするという前提での発言です。

こういったことを考えると、日本の広告主の皆さんもぜひカンヌに行って、自分たちの仲間でありライバルでもある世界の広告主が何を考え何をしようとしているのか、その声に耳を傾けることは、とても役に立つのではないでしょうか?特に、部長職以上のマネジメントを仕事としているクライアントの方に参加いただければ、より多くのヒントが得られると思います。

全体としてまだまだ多くの発見があったのですが、長くなり過ぎてしまうので、詳細はまた別の機会に譲りたいと思います。

いずれにしろ、欧米の広告主の動向を取材・研究し、「クライアント3.0」とでも呼べそうな実態を明らかにし、「変わる必要がある」と感じていらっしゃる日本の広告主の方々に、今後も情報として提供したいと考えています。

(本稿は、JSPS科研費 15K03733 の助成を受けたものです。)

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