最終日—フィルム/フィルムクラフト/ブランデッドコンテンツ&エンターテインメント/チタニウム&インテグレーテッド部門、と、初のカンヌで感じたこと。【編集部カンヌ通信】

さて、残すはチタニウム&インテグレーテッド部門。2つグランプリがあります。
チタニウム&インテグレーテッド部門のグランプリは、ナイキ Jordan Brand「RE2PECT」。

昨季引退したNYヤンキースのデレク・ジーターのために制作されたCM。マイケル・ジョーダンら豪華出演陣がキャップを持ち上げ、デレク選手に敬意を表明していく。制作はWieden + Kennedy New York。前出のゴルフのCM同様、ワイデンらしいエモーショナルなCM。

チタニウム部門のグランプリは、ドミノピザの「Emoji Ordering」(CP+B Boulder)。ドミノピザをTwitterの「ピザの絵文字」でオーダーできるシステムです。これを聞いて、「Emoji」って世界共通なのかしら、と思いませんでしたか? ちょっと調べてみました。実は(知らなかったのですが)絵文字は日本発祥で2010年に世界共通のユニコードに採用され、以来「Emoji」として世界各国で親しまれるようになっています。アメリカでも若者にSNSで盛んに使われています。

「Emojiは世界では驚きと新しさと共に受け止められている」とチタニウム審査委員長のマーク・リッツロフ(Wieden + Kennedy)。このキャンペーンによってドミノピザが売上げを伸ばし、米国市場でのプレゼンスを復活させたことも受賞理由の一つ、ということでしたが、ビデオでは初日に500人がオーダーした、ということしか結果が出てこないのでその辺りのスケール感はいまいちわかりません。何年も前にQRコードが日本では普通で世界ではまだ新しかった時、QRコードを使ったものが海外広告賞で次々と受賞しましたが、その感覚と近いのかしら?とも感じました。

さて、ここで話は冒頭に戻りますが、チタニウムではなくフィルム部門が今年のトリを務めた理由、それはチタニウムの「ベストオブベスト」としての納得感の薄さにあるのかなという気がします。逆に、現地で印象的だったのは、フィルム部門が発表になった後に「いやこれですっきりした、よかった!」とすがすがしい表情で贈賞式会場を後にした人が多かったことです。

これは、何なのか?「これぞ、王道だよね」と言った人がいました。それもあるでしょう。でも一番腑に落ちたのは「フィルムは『ソーシャルグッド』から自由だった。しばられていなかった」、という言葉を聞いた時でした。

今年のカンヌでは「Social Change」「Game Change」という言葉を耳にタコができるくらい、聞きました。受賞した作品の多くもそこに拠った理由で選ばれています。でも、本当に本心からそれがいいと思って選んでいるのか、どこか窮屈そうだなと感じたのも事実。博報堂ケトルの橋田さんが挙げてくれたような、もっとスカッと笑えたり、泣けたりする広告らしい広告をもっと見たいのではないか、それが「フィルムはよかったね!」の声になったのではないかと感じます。

「広告」の文字は取れましたが、カンヌはやっぱり広告のイベントです。社会課題に向かうのも、スタートアップ方面に進出するのも、そうありたいというカンヌの「意思」です。しかし、「実態」の中核をなしているのは何十年も世界の広告界を支えてきたエージェンシーの人たちです。ライオンズイノベーションのプレゼンの聞き手が「オールド・エージェンシー」に設定されていたという須田さんの話からもそれがわかります。

ここ数年、カンヌは「テクノロジー」と「クラフト」の両極の間を揺れながら進んできた印象がありました。今年は「エージェンシーの新しい役割」と「トラディショナルな広告」の間を揺れていたような印象です。ですが、その両極を行き来するダイナミズムによって、カンヌがパワーを生み出しているのもまた事実だと思うのです。


贈賞式後のクロージングガラ(クロージングパーティー)でお会いした、ある知り合いのクリエイターが静かに言いました。「今年のカンヌで決めた。海外のエージェンシーで働こうと思う。そのために英語も勉強する」。

今回初めてカンヌに来るにあたって、知りたかったことの一つに、「ここに来なければできないことは何か?現地に足を運ぶ意味は何なのか?」ということがありました。表彰台に立つこと、スクリーニングを朝から晩まで見ること、ネットワーキングすること。どれもその一つの答えだと思います。でも、それで全部なのだろうか?という感じもどこかありました。それがこの人の言葉で、そうか、と思えました。カンヌって、自分が変わるきっかけをつかむ場なんですね。受賞できなくても、カンヌをきっかけに何かを始めたり、行動を変えたり、新しい決意を胸に秘めたりすることが、本当にカンヌを「活用した」人なんじゃないかと思えました。耳タコだった「Perception Change」という言葉を、そのまま自分に起こせればいいのだと。

これで今年のカンヌ通信は終わります。最後までおつきあいいただいた皆様、ありがとうございました。次号のブレーンでは、より深堀りし、凝縮した形で特集をお届けしていく予定です。1カ月後、今後は雑誌をぜひお手に取ってみてください。

(ブレーン編集部 刀田聡子)

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