山井太×国見昭仁「経営の90%はロマンでできている~急成長続けるスノーピーク、異色の経営論」

市場は「ある」ものじゃなく「つくる」もの

国見:新しいものをつくろうとするとき、世の中の声を聞くことが、どういう意味を持っているのか。スノーピークのような会社はその本質を捉えていると思うんです。でも、企業は大きくなるほど、市場調査の結果通りに商品をつくりがち。同じように調査をして商品をつくれば、市場には似たような商品ばかりが並んでいくのは当然です。スノーピークではいわゆる市場調査は行いますか?

山井:1回もやったことはないですね。

国見:マーケットがあるかどうか調査してほしい、という依頼をクライアントからよく受けるんですが、マーケットが「あるかないか」ではなく、「つくるかどうか」だと僕は思っています。

山井:市場というのは、誰かが初めての製品を投下しないと生まれない。だから、最初は必ずプロダクトアウトから始まるはずなんです。

国見:最近「顧客志向」という言葉が盛んに使われますが、僕はその言葉をあまり使わないようにしています。プロダクト志向やシーズ志向が実はすごく大事で、それを顧客志向にどう掛け合わせるかというふうに考えていきたい。スノーピークは今、「アーバンアウトドア」に力を入れるという新しい方針を打ち出していますね。

山井:日本のキャンパーは人口のわずか6%です。残りの94%の人たちのために、スノーピークがおせっかいにも都会に出ていって自然とつなぐ。「人生に、野遊びを。」という言葉を掲げて、都会の人にも自然を楽しんでもらう新しい事業展開を進めています。

国見:電通は2010年にスノーピーク内に未来創造室という部署を置いてもらい、僕は室長としてそこに在籍しています。まず行ったのは、スノーピークを「人間回帰するための事業」と再定義することでした。キャンプも人間回帰の手段のひとつと捉えれば、事業の見え方が変わってくる。都会のベランダなど、都心で人間回帰してもいいわけです。まだサービスインしていない夢のような事業がいくつもありますね。

山井:これからすごいことになりますよ。

国見:最後に、山井さんから見て日本の経営者はどうですか?

山井:全体的に見て元気がないですよね。今の日本の資本主義は、乱暴な言い方をすれば、オリジナル商品が出た途端に追随商品が現れ、陳腐化していくという状況です。大企業には資金も人材も情報も集まっているのですから、10社あれば10社が違う価値をつくれるはず。そういう資本主義経済にしていかなければいけないと思います。広告会社は、クライアントが他の企業の追従をしようとしたら、そういうことはカッコ悪いのでやめてくださいと止めてほしい。消費者が情報発信する時代では、正しくオリジナルをつくり、正しく販売している会社が高く評価される。我々のような会社にはいい時代です。広告会社には、クライアントを正しいビジネスに導くパートナーの役割を期待します。

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山井太(やまい・とおる)
スノーピーク代表取締役。1986年に入社し、アウトドアをライフスタイルととらえ、スノーピークをオートキャンピングブランドとして展開。オートキャンピングのパイオニアメーカーとして日本のアウトドアシーンを革新する。1996年に社長に就任。国内での全国展開はもとより、北米・ヨーロッパ・アジア・オセアニア地域に営業を展開し、日本からの情報発信を行う。2013年には、日刊工業新聞主催「第31回優秀経営者顕彰」において最優秀経営者賞を受賞。2014年自身初の著書となる『スノーピーク「好きなことだけ!」を仕事にする経営』を執筆。

 

国見昭仁(くにみ・あきひと)
電通 エグゼクティブ・プランニング・ディレクター。2004年入社。金融プロジェクトにおいて、100社を超える金融機関のマーケティング戦略を立案。 2010年、経営者と向き合いながら、企業のあらゆる事業活動を“アイデア”で活性化させる「未来創造グループ」を立ちあげる。化粧品、車、通 販、外食、旅行、アパレル、ソフトウェア、銀行、消費者金融、不動産、新聞、通信、飲料、保険、エステ、投資ファンドなど、さまざまな業界において、経営 者とビジネス活性化および再生プロジェクトを実施。


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