あらゆるステークホルダーのインサイトを探り当てる
僕は、ブランドが流行ったり、話題になるには必ず理由があると思っています。しかし、流行りをつくることを目指してもそれは一時のバズしか生みません。
ブランドの話題化を考えるのではなく、社会にとって存在意義のあるブランドを第3者の視点でつくることが、実は僕らの役割ではないでしょうか?
ここで、第1回から僕が語っている、「パブリック・リレーションズ発想」で、コンテンツをつくる、という話につながってきます。
パブリック・リレーションズの考え方においては、対メディアだけでなくそのブランドを取り巻くステークホルダー(利害関係者)との良好な関係を構築することが第一に重要なことです。
その良好な関係を構築するため、維持するために、情報をメディアに伝えてもらったり、ソーシャルを使って情報を発信したり、消費者を巻き込む体験型のイベントを実施したり、有識者や芸能人など他者から語ってもらったりするわけです。
では、実際に「パブリック・リレーションズ発想」でコンテンツを考えるには、どんな視点が必要でしょうか。
ブランドを取り巻くステークホルダーは、消費者、生活者、有識者、専門家、行政、株主、取引先、流通、従業員など多岐にわたります。
ブランドがおかれた状況によって、誰にどのようなコミュニケーションを取っていくべきかを個別に設計する必要がありますが、その鍵となるのがステークホルダーのインサイトを洞察することです。
僕が手掛けることの多いマーケティング案件でいえは、「消費者インサイト」「メディアインサイト」「ソーシャルインサイト」の3つの視点からの洞察は欠かせません。
買っている人の買っている理由にヒントがある
「消費者インサイト」とは、言葉通り、実際に、買ってもらいたい、理解してもらいたい、ファンになってもらいたいターゲットの本音です。そういうと、多くの人は今その商品の顧客でない人がどうやったら顧客になるか、という発想で考えがちです。
しかし、「何で買わないのか」ばかりを考えていても答えは見つかりません。
実は「買っている人の買っている理由」にこそ、購買に結び付く本当の理由が隠れているのです。
例えば、「タニタ食堂」に行きたいと思っている人、「タニタ食堂」の本を買って料理をしている人、「タニタ食堂」にいつか行ってみたいと思っている人など。
その人たちが、なぜ?「タニタ食堂」に魅かれるのか、どのタイミングで興味を持ったのか、その理由を深く洞察してみるのです。そこから何かが浮かびあがってくるはずです。
次に「メディアインサイト」です。これは、簡単に言ってしまうと、メディアがどうしたら取り上げたくなるか、興味を持つか、ということです。
メディアとひとくくりにしましたが、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、WEBメディアなどさまざまな媒体がありますし、その特性によって取材したい!取り上げたい!と思うポイントは色々です。
ただ、露出をメインに考えるのではなく、メディアに応援してもらえる存在感をどうつくるか?が要です。今までは、そのメディアのインサイトを逆算して、5W1Hをいかに新しく見せるか?また驚きをもってどう表現するか?意外性や納得性などをいかに持ってもらうか、などを掘り下げていくのが、「メディアインサイトを考える」ということでした。
でもこの視点だけだと一過性の話題づくりに終わってしまいます。人を「動かす」ためには共感・共鳴、参加・参画が必要です。人が継続的にブランドとの関わりを持とうとするのは、ブランドのビジョンを体現する取り組み、行動です。それが、応援したいモチベーションとなるのです。
そして、最後に「ソーシャルインサイト」です。この「ソーシャルインサイト」とはソーシャルメディアのインサイトではなく、世の中全体として、そのブランド、そしてブランドに込めたビジョンが社会とどのような関わりを持てるのかということです。
特に、有識者やオピニオンリーダーと言われるインフルエンサーがどう発信しているかということは重要です。また、デジタルデバイスが発達した現代では、ソーシャルメディアなどを通して可視化されやすくなった口コミや民意のようなものが社会の大きな流れをつくり出すこともあります。
こういった社会の潮流と関わり、その流れを大きくしていくコンテンツでないと、なかなか「面白い」「共鳴できる」と感じてはもらえません。
この3つのインサイトをバランスよく配合させながら、それが商品特性やメッセージとうまく合う部分を探りながらハイブリッド型(=PR視点+ブランド文脈)のコンテンツをつくっていくことが、僕のいう「パブリック・リレーション発想でコンテンツをつくる」ということになります。
この配合は最終的に達成したい目的や、商品のポジションによって調合や割合を変えていく必要はあるのですが、どの割合にしてもこれらの視点を入れていくことで、単なる「面白い」だけのクリエイティブアイデアでなく、社会にとっての存在価値を想起させ、消費者が共感・共鳴、参加・参画できるコンテンツになっていきます。
次回は、具体的な事例を通して、この3つのインサイトをどう調合していったのかをご紹介したいと思います。