フジテレビ系「水10」でいよいよ連続ドラマ『リスクの神様』がスタートした。巨大商社で企業を守る危機管理専門家にスポットをあて、現代社会におけるタイムリーなテーマを扱う硬派な本格社会派ドラマだ。
このコラムでは、毎回の放送後に『リスクの神様』の見どころや危機管理と広報の教訓、キーポイントなどを本ドラマの監修者で危機管理の専門家としての筆者の目線から解説していく。
『リスクの神様』第1話のあらすじ
ドラマの舞台となるのは大手商社・サンライズ物産。新たに「危機対策室」を設置し、リスク対応のスペシャリストとして危機対策室長・西行寺智(堤真一)を新たに迎えたのもつかの間、新事業で製品欠陥の問題が発生。その矢面に立つのは、東大卒のエリート女性社員・神狩かおり(戸田恵梨香)だ。神狩かおりは新会社の役員として華々しい製品プレゼンテーションを披露するも、ドラマの後半では一転、多くの報道陣を前に謝罪会見に臨むことになる。
第1話の教訓-「早期商品化」への焦りが生んだ製品欠陥のリスク
第1話では、特殊耐熱素材から生まれたLIFE事業という新事業の立ち上げ、さらに小型高性能バッテリーを内蔵したPCや自走式掃除機の新商品開発にまつわるリスクについて話は展開する。
新事業の立ち上げには、ライバル企業の開発攻勢に伴う危機感から生まれる焦り、商品開発時のミスや不正などもリスクとして取り込まれ、華やかな新事業の記者会見の裏で大きな危機がうごめいていることを当事者たちはまだ知らない。
商品開発担当役員に抜擢された「神狩かおり」は、早期商品化という功を焦るために製品開発時の重要なプロセスを見過ごし、人体に危害を与える発火事故を伴う製品欠陥クレームを招致してしまう。
本来、製品開発においては、その工程や試験データなど、コンプライアンス上発生が予見されるあらゆる不正行為やミスに対して防御システムが働いていなければならない。「神狩かおり」はこの工程管理を怠り、または看過して気づくことができなかった時点で、担当取締役として重大な責任から逃れ得ないだろう。
ドラマでは、さらに、「この事故は、異常な高温多湿状態に粉塵等の空気中浮遊する物が多数存在するという特殊な条件が重なって起きた」と解説するシーンがある。
室内の埃(ほこり)を集める掃除機という機能を有する電気製品を念頭においた場合、この特殊条件が生み出される可能性は決して低くはない点を認識すべきであり、消費生活用製品安全法の視点からも、発火事故を伴う製品クレームが身体障害を与える重大事故として取り扱われることも容易に想定されることは言うまでもない。
こうした状況は、企業側のお客さまへの安全への配慮や製品への信頼を裏切る重大危機につながり、ドラマは最近、実際に発生した企業不祥事を彷彿とさせるかのような危機的展開を歩み始める。
まさに、成功と失敗、繁栄と危機とは表裏一体、人生の浮き沈みを暗示するかのような状況だが、現実においてもこのような三場(修羅場・土壇場・正念場)の緊急事態は残念ながら多く存在する。一度はしごを踏み外したら、同時多発的に発生する危機的事態に対応は困難さを増し、気がついたときには手遅れとなっている。そんな非情な世界を『リスクの神様』はリアルに描いている。