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田井中さんから、もらった言葉。
以前にもこのコラムで書かせていただきましたが、田井中さんは、堀井さんと石井さんの間に立って堀井グループを支えた人で、亡くなられてからもう3年半が経とうとしています。
田井中さんと話すと元気になれました。がんばらなくっちゃと素直に思えました。
何かで迷ったときには、いつだって相談にのってくれました。
先輩であり、上司であり、兄のような存在。それが僕たちにとっての田井中さんでした。
これから書くのは、そんな田井中さんが十数年前に送ってくれたメールの話です。
その当時、田井中さんは東京本社に赴任されていましたが、関西のCD(クリエーティブ・ディレクター)のみんなに見てほしいと一本のビデオを送ってこられました。日本中の人が知っているようなキャンペーンやCMを次々と発信していた方が、話をされていたビデオでした。
「自分が、今、興味を持っているのはデザインである。今の世の中の人たちを
動かすことができるのは、言葉ではなくデザインなのではないかと感じている。
若い優秀なデザイナーたちも続々と出てきている。そういう人たちと仕事をするのは
とても刺激的だし、楽しい。結果としても、いい仕事になっている」
というような内容だったと記憶しています。
ビデオを見た数日後、田井中さんにメールする用件があったので、そのビデオを見て自分が感じたこともいっしょに書いて送りました。すると、すぐその翌朝に長文のメールが返ってきて、
「さすが、恐妻家(笑)。いいところを見てくれたな。みんなに感じてほしかったのは、そういうことです」というようなことがまず書いてあり、さらに続けて、
「ビデオの内容はまさにその通りで、最近は特に、デザインというものが重要に
なってきていると思う。でも、関西で仕事をしてきた俺たちはずっと言葉をだいじに
してきたよな。デザインが主流になってきている今だからこそ、
なおさら、山ボンには言葉をだいじにしてほしいと思っています。
なぜなら、広告は少数派が有利だからです」
というようなことが書いてありました。忙しい中、そういうことを書いて送ってくれたことがとてもうれしかったです。励みになりましたし、背筋も伸びました。
「広告は、少数派が有利」。
まさにその通りだと思うんです。
人のやらないことを狙っていく人が、他に抜きんでた存在になるのだと思います。広告に限らず、どんな仕事だって同じなんじゃないでしょうか。
このメールはほんの一例で、田井中さんは僕たちひとりひとりの仕事や気もちを見てくれていた人でした。僕が若いころには、
「今、山ボンがやっているその仕事で、賞は獲れない。でも、商品は売れているし、
企業のイメージも上がっている。スポンサーに貢献できている仕事や。
賞が獲れないからといって、手を抜くなよ。飽きたらあかんで。
広告というのは、送り手側が先に飽きてしまうんや。効果がある間は、
がんばって続けろ。送り手側が思うほど、世の中の人は広告を見てないんやから」
そんな風に元気づけてくれたこともありましたし、
「この人は優秀やから、いちど会いに行ったほうがいい。
きっと、次のあの仕事に役立つと思うんや」
というようなアドバイスをくれたり、酒を飲みながら、
「俺たちの業界の多くの人は、目立つ仕事をしたいという気もちを持っていると思う。
ただ、だいじなことは、そういう気もちを、いつでも、どんな場面でも、
つねに持ち続けていられるかどうか、なんやろなあ」
というような話もよくしてくれました。
こういう場では書けないことも含めて、いろんなことを教えていただきました。
田井中さん、ありがとうございました。