電通・菅野薫が語る映像クリエイティブ「統合キャンペーンの時代だからこそクラフトマンシップを!」

―――ここからは、菅野さんが思う映像クリエイティブについて伺わせてください。菅野さんはACCでフィルムとインタラクティブ2部門の審査員をご担当されておられますよね。現在、映像クリエイティブに最も求められているスキルは何だと思われますか?

同じ広告のための映像と言っても、YouTube的な場所で公開される映像で獲得しなきゃいけないことと、テレビCMで獲得しなきゃいけないことは全然違います。そこでユーザーが得られる体験が違う。
だから作り手側も、獲得しなければいけないスキルと手法は自ずと違ってきています。

僕らがボーッとテレビを見ているときに、CMは一方的に強制的に与えられる。それでも嫌な気持ちにさせず、ふっと注意が向くような表現をつくる技術を何十年も培ってきたのがテレビCM。一方、YouTubeのようなWeb動画が出てきて、スキップされずに最後まで観てもらえるのか、観終わった後誰かにシェアしたくなるか、そういう力学まで計算が必要になってきました。

―――Web動画のほうが、受け手により能動的欲求を発動させる必要があるということですね。

そうですね。観た後にシェアしたくさせる技法が大事、という話は先ほどしたけれど、もう1つあります。

タイムラインに出てくるサムネイルなどを見てクリックしたくなるかどうか。クリックされないことには、映像を観せることすらできないわけですからね。たとえば、ジャン=クロード・ヴァン・ダムが腕を組んで立っているサムネイルを見ただけで「どういうこと?」って何か興味がわきますよね。

勝手に始まらず、いつでも停止できて、誰かが教えないと広がらないっていう意味において、Web動画とテレビCMとでは相当、作り方も変わってくるはずです。

―――なるほど。では、従来のテレビCMの作り手であったCMプランナーという職種は、今後どう変化していくんでしょうね?

CMプランナーとして求められる技術が増えていることは、間違いないと思います。そして、もう単純に15秒を最大化する面白コンテを出すだけがクリエイターというわけにはいかなくなりました。ちゃんとコミュニケーション全体として戦略性を持った提案ができているか、その映像コミュニケーションはなんのために、何を受け手に及ぼすのかということを、しっかりと言語化してクライアントと話せる人が生き残る時代です。

カンヌでもフィルム部門ですら、パッケージとしてのCMの完成度はもちろん、これが世の中にどう影響を及ぼしたかを評価するようになっていますよね。

―――それはつまり、極論するとCMに特化した職人はいらない、ということでしょうか?

いや、決してそうではありません。むしろ逆です。クラフトマンシップ、つまり専門性がより重要になってきていると考えています。何かひとつ偏執的ともいえる、専門スキルが最低限必要で、そこからさらに全体を見て統合的判断ができる人が重要になってきた、という話じゃないかなと思っています。いろいろやれるようにならなくてはいけないので、CMがちゃんとつくれないというのでは困りますよね。

むしろ僕は、最近の広告業界全体がクラフトの重要性を甘くみているんじゃないか、と危惧しているところなんです。

―――面白いですね。そのあたりの話、もう少し詳しく聞かせていただいてもいいですか?

今の若い人と話すと、いきなり「自分はコピーライターで、CMもやるんですけど、デジタルにも興味あります」とか言う人がいるんですよ。それはそうだろうなと思います。でも、クライアントや、営業や、クリエイティブディレクターの立場からすると、何か特別な得意技がないと、どこで呼んでいいかわからない。プロフェッショナルとして、何の仕事をお願いするべきなのかがあいまいです。

僕自身は昔から、「テクノロジー専門なのでテクノロジーを基軸に戦います」ってクライアントに明快に言い続けていました。そうすると、テクノロジーから発想した表現が必要なときには声をかけてもらえるから。

僕が所属しているCDCにしても、よく全領域対応の集団と思われがちなのですが、実は皆、CDCに来るまでに、何かある一つの専門領域を極めているんですよ。それから全体を統合するディレクションをしている。

―――確かに、そうですね。このクラフトマンシップの重要性についは、映像クリエイティブに限定しても、言える話でしょうか。

そう、同じ映像で戦っていくにしても、まず何かを偏執的なまでに専門性を高めることが重要。コピーライティングを強めていくのか、音楽を強めていくのか、もしくは、僕みたいにデータという切り口で勝負するか。最終的に映像に落とし込むまでの技術は、広範囲にわたるのですが、今こそ個人個人が何か偏執的なスキルがないと生き残っていけないのかな、と感じています。

僕は、クリエイティブ職に昔から存在するある種の職人主義、つまり徒弟制というか、先輩について徹底的に若いころ数年間仕込まれる、という経験は、すごく大事なことだと思います。職業としての基本だから。

僕は、同じ業界に同様のジャンルの人がいなかったから1人でやるケースが多かったので、最近になってむしろ、そういう経験をされた方を羨ましく感じています。

次ページ 「少し前からインテグレーター、つまり統合型キャンペーンを提案できる人が」へ続く

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