電通・菅野薫が語る映像クリエイティブ「統合キャンペーンの時代だからこそクラフトマンシップを!」

―――少し前からインテグレーター、つまり統合型キャンペーンを提案できる人が重宝されている時期がありますよね。僕が所属している博報堂ケトルもそう思われがちですが。先ほど菅野さんが言われた「最近どうも、広告業界で専門性が甘く見られているんじゃないか」という話は、もしかしたら、その影響かもしれないなって思いました。

上手く言えないのですが、どうも若いクリエイター達までもが最初から「なんでもやりたい。人を動かしたい」と思いすぎている気がするんです。怖いくらい万能感を持っているように感じますね。

そもそも「人を動かす」って大変な話じゃないですか。むしろ宗教みたいな大きな話。「そんなに簡単に人なんて動かないよ」って僕は思っているので、驚くことがあります。技術を磨いて、人生に1ミリでも影響するコピーを1行でも書けたらいいな、と思っていた職人の時代から、突然「全ての技を使って、人を動かす職業へ」とか業界全体が言い出していて、その万能感がちょっと怖いですよね(笑)。そもそも、広告屋なんて嫌われ者の仕事だったのに、なんでそんなに偉そうになっちゃったんだろうって。

―――興味深い話です。若い時から自分の「勝ちどころ」というか、「価値どころ」がないまま、最初から輪郭だけを追いかけてしまうのは怖いことですね。
では最後に、かつての菅野さんがそうであったようにクリエイターに限らず広告業界の様々な職種で働く若い方々に、メッセージをお願いできますか?

若い方々に何か言えることがあるとすれば、今こそ自分の専門性を明確にして信じた方が良いってことです。

例えば、僕がたまたま持っていたデータ分析という専門性とスキルが、表現の世界でも評価されるなんて、そういう仕事が世の中に出るまで、周りは信じなかったはず。3年前に僕が「電通総研の菅野です。3年後にクリエイター・オブ・ザ・イヤー取ります」って言っても、みんな「ぷぷっ」って笑っていたはず(笑)。僕も笑っていたと思います。そんなの全く想像していませんでしたから。

データも、突き詰めればアートディレクションになるって話とつながるけど、自分の職種と職能は、こういうことしかできないって思ったら終わり。あらゆる職種はクリエイティブであって、専門性を突き詰めれば革命的なクリエイティブになることもあるんだと思うんです。

菅野 薫(すがの・かおる)
電通 CDC クリエーティブ・ディレクター/クリエイティブ・テクノロジスト。

東京大学経済学部卒業。2002年4月に電通入社後、自然言語処理やデータ解析の研究開発業務や、国内および海外の商品サービス開発、広告キャンペーン企画などのクライアント業務に従事。テクノロジーやデータで人の心を動かす新しい表現方法を開拓している。 カンヌライオンズ チタニウム部門 グランプリなどさまざまな領域で受賞多数。手がけた主なクリエイティブワークは本田技研工業インターナビ「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」、同「Road Movies」、日本スポーツ振興センター 「SAYONARA国立競技場ファイナルセレモニー」、同 「世界を更新しよう。」、アミューズ、ユニバーサル ミュージック合同会社 「Perfume Project」、太田雄貴「Fencing Visualized Project」など。

(構成・取材・文/博報堂ケトルSTOVEカンパニー 原利彦)


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