【第1回目】「電通・菅野薫が語る映像クリエイティブ「統合キャンペーンの時代だからこそクラフトマンシップが必要」」はこちら
———カンヌライオンズでの審査、お疲れさまでした!受賞作品の個別レビューに関しては、きっとアドタイに出ているであろう他記事にお任せするとして、長谷部さんには、審査を通じての純粋な感想、そして世界の映像クリエイティブ全体の潮流を、お聞きしたいと思っております。
さて、カンヌライオンズといえば、かつては“フィルムが王道“という時期がありましたよね。しかしながら、ここしばらくはチタニウム部門や、サイバー部門、PR部門に注目が集まり、フィルム部門の影が少し薄くなっていた印象を感じていたのですが…。
確かに一時期、「CM離れ」とか、「フィルムは古い」と言われていた時期はありました。しかし、カンヌ広告祭自体が1954年、フィルム部門から始まったこともあって、フィルム部門の審査員達は皆、独特のプライドを持って審査に当たっています。
そして、今年のフィルム部門の審査員達は、すごく良いチームでしたね。作品に忠実に、フェアにということを重要視し、未来の指針となる審査をしようという空気に満ちていました。
そして、僕自身、今年の審査を通じて「フィルムこそが、伝統的かつ、最新の王道コンテンツだ」と、確信するに至りました。
———おお、そうなんですね。具体的にはどういった点で?
デジタル化により、テレビメディアの力は確かに弱まったかもしれません。でも、今現在、オンライン上で最も観られ、シェアされているコンテンツは何なのかというと、それは結局のところ「フィルム(映像)」なんじゃないかと。
人々が、タイムライン上に気軽に動画をシェアできるデジタル環境が整った現在こそ、「フィルム」が、オンラインも含めて最も流通される王道のコンテンツなのだと。
———確かに。通信環境が進化して、Facebookのタイムライン上で動画がストレスなく観れるようになったのも、ここ1~2年ですもんね。「フィルムの逆襲」の時代が来ている、と。しかし、作り手側に求められることは、これまでとは変わりますよね。
その通りです。
例えば、プレロールアド、いわゆるYouTubeの一番頭に強制的に5秒くらい出てくるCMですね。本来、もっとも視聴者に嫌がられ、基本はスキップしていくことを前提にせざるを得ないという過酷なメディアです。
そのプレロールアドを含めた、フィルム部門オンラインカテゴリーで、今年、カンヌのグランプリを受賞したのがGEICO(ガイコ)という保険会社のCMです。
「どうせ5秒でスキップされるんだから、5秒のうちに伝えちまえ!」という、あえて視聴者を小バカにするようなコミュニケーションをとりながら、それでもつい最後まで観てしまう可愛い仕掛けを組みこむことで、本来、嫌われ者であるはずのプレロールアドをエンターテインメントのレベルに昇華し、そこが高く評価されました。
また、フィルムの置き場所がデジタル世界に広がった時に、これまでの15秒とか30秒といった、尺の制限が意味を失いました。よって、当然のことながら、これまでの求められてきたこととは異なるストーリーの組み立て方や、演出、表現の技法が求められています。
———そのような潮流において、日本からのフィルム部門出品作品は、今年カンヌのショートリストにもほぼ入ってなかった気がしたんですが…。実際、審査の現場ではどのような印象を受けましたか?
各審査員は事前に、自国で相当量の出品作品をオンライン審査して、結構な量をふるいにかけます。そこで勝ち残った作品を3チームに分かれて選んでいくんですが、残念なことに、日本の作品は、その段階でほとんど残っていませんでした。