博報堂・長谷部守彦氏が語る映像クリエイティブ「フィルムこそが、王道コンテンツ!」

———日本の出品作品があまり選ばれなかった理由はなぜでしょう?

2つの理由があって、1つはカルチャーギャップ。これはやはり、大きいと思います。審査員は様々な国から選ばれていますが、やはり、アメリカ・UKの作品はどうしても強い。フィルムは他の部門と違い、作品の背景を説明することが全くできない部門なので、文化や地域のハンディキャップはどうしても埋めにくいですよね。

もう1つは、ストーリーテリングと演出力。実は、何人かの審査員に「日本のフィルムは人間描写がもったいない。心情の捉え方とか役者の選定、受け手を自然に話に引き込むべきところのストーリーテリングが、ちょっと雑なんじゃないか」と言われました。

文化や言語の違いに加えて、感情に訴えかける総合的なクラフト力の差というものが、確かにあるのかもしれません。

———フィルムのクリエイティブに求められる役割が新しい領域に入ってきた現在、日本のレベルがまだそこに対応しきれていない、という印象でしょうか?

うーん。ある審査員いわく、「日本のデザインカテゴリー、テクノロジーカテゴリでのストーリーテリングや緻密さでいえば、世界でも超一流の国で、みんな憧れている」と言うんです。

昨年、チタニウムでグランプリを受賞した『Sound of Honda』はデータをエモーショナルな形で再現する本質的な新しさに加えて、ドキュメンタリーとして見せていく語り口が繊細で、本当に構築が見事である、そして多くの日本のデザインもユニークだし、これ以上でも以下でもないという、絶妙の繊細なタッチで作品に収められていて息をのむ出来映えだと。

ただし、フィルムになると日本は、繊細さ、組立、圧倒的演技力などの、まとまりのあるクオリティを感じない。そこは何故なんだろうって言っていました。

そして一方、日本映画ファンの審査員からは「登場人物の感情を描く、繊細な演出や技法が素晴らしい作品が多いのに、なぜ、それがCMでできないんだ?」と、いう声も聴きました。

フィルムは、説明が許されない極めてフィジカルな判断を求められるカテゴリー。文化的なギャップをひとまず置いておいたとしても、ひとつの映像が人のエモーションを最終的に動かすというところが、本当に重要でした。アイデア、コピー、アート、スクリプトを高めることに加えて、演出や技法といったクラフト面で、CM業界にとらわれない人材の活用や、発想が必要なのかもしれないと、感じました。

———なるほどですね。それでは、最後に今、第一線で戦っているCMプランナーの方々にメッセージをお願いできますか?

そうですね。あくまで個人的な考えですが、もうCMプランナーの肩書は忘れて、自分はライターであると思った方がいいのではないかと思います。いわゆる企画やコピーに限らず、ブランドのストーリーを描く役割。クライアントの経営者のスピーチスクリプトから、長尺のエンターテイメントビデオの脚本までプロフェッショナルとして書いていく存在。
そして、それを実際に制作する過程において、もし必要だと感じたら映画でもテレビでも、いろんな業界のスタッフの力を借りればいいんじゃないかと。

例えば、80年代なんかは日本において、映画やテレビ番組よりもむしろ、CM業界のほうが「凄い!」って評価されていた時代がありましたよね。圧倒的に優秀なクリエイターやスタッフが集まっていた。もし、今がもしそうじゃないと言われるなら、もっとニュートラルな発想でいろんな業界の人材とコラボすればいいのかなと。

CM、フィルムは終わったってよく聞くけど、カンヌの審査を通じて、「いや、決してそうじゃない」ということを確信しました。

結局、フィルムの授賞式が一番盛り上がるんですよね。3000人の様々な国の人たちが、フィルムの授賞式で、泣いたり爆笑したりしているのを見て、フィルムの伝達力ってやっぱり凄いな、と。言語や理屈を超えるパワーがありますよね。

そしてフィルムの置き場所は、これからもっと横に広がる。CMプランナーにとって、リングがどこにでもある状況になっていくと思うので、今こそが力の見せどころだと思います。

長谷部守彦(はせべ・もりひこ)
博報堂 統合プランニング局 エグゼクティブクリエイティブディレクター。

1986年博報堂入社。コピーライター、CMプランナーを経て現職。国内外の多数の広告キャンペーン制作を経験。今年でCM制作30年。これまでにCannes Lions, Spikes Asia, AdFest, One Show, D&AD等で国際広告賞の審査員を経験。

(構成・取材・文/博報堂ケトルSTOVEカンパニー 原利彦)


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