書くモードに入るために
人は、乗ってもいないボートのオールを漕ぐことはできません。セルフコントロールも全くできないアホな私は、締め切り直前で気分が乗っていないと原稿が書けません。そこで、気分を「書くモード」にするために、写経をします。
呉服のパンフレットの原稿の前には、着物の雑誌やカタログを、女性向けのグルメ記事の前には、女性誌の記事を書き写します。1000字くらい写経していると、脳はその対象のことが好きになってきます。これから読んでもらおうとするターゲットと一体化してきます。そこでパチンとスイッチが入ります。何を書こうか、どうすればよく書けるかなんて悩む時間があったら、身近な文章を書き写してみませんか?
ただし、写経をするときの注意点がふたつあります。一つ目は、紙媒体を使うことです。
ネットの記事は、紙媒体と比較すると、校正が若干甘いです。間違った表現や間違った言葉の使い方を覚えてしまうことがあるので、紙媒体にしましょう。
二つ目は、興味があるものに絞ることです。カッコつけて、「天声人語」とかを写経しないこと。天声人語が好きで好きで、「天声人語のことを考えると、脳から変な汁がジャーッと出てくるくらい大好きだ!」という人なら、迷うことなく天声人語を写経してほしいですが、そうでない人は止めましょう。なぜかというと、絶対に途中で嫌になって止めてしまうからです。つまらないことで挫折を経験すると、ますます自意識がこじれます。
どうしても、生理的にダメな、書きたくない対象が出てくるかもしれません。なんとか体裁を整えていくうちに、脳が慣れて、書けるようになることもありますけれど、どうしようもなくなったら「思い切って止めてしまう」という最後の切り札を握り締めておきましょう。一人で何でもできる必要はないです。
次回は「ノウハウだけを求めていると損をする–講義や課題はきっかけにすぎない」です。
綾部 綾(あやべ・あや)
長崎県生まれ、名古屋市在住。フリーランスライター。Web、週刊誌、企業系情報誌などでニュース、コラムを執筆。「編集・ライター養成講座 総合コース」「コピーライター養成講座 基礎コース」修了生。
『編集・ライター養成講座 総合コース』
講師陣は、総合誌、週刊誌、ビジネス誌、ファッション誌、Webメディアなどさまざまな分野の現役編集長や、第一線で活躍中のライター・ジャーナリスト・作家など。多くの課題添削、実践トレーニングを通じて、現場で活躍できる編集者、ライターを養成します。