映画も音楽もCMも、現場が生き生きしていないとダメ!(ゲスト:浅野忠信さん)

「ナチュラルな演技」の原点はオーディションにあった!?

権八:僕が印象に残っているのは1995年のカフェレシオというCM。浅野さんがコンビニのレジに並んでいて、店員さんに「103円です」と言われて、浅野さんが「1円あります」とか言ってポケットを探すんだけど、「やっぱないです」と。それだけのCMだったんですけど、異常にナチュラルな芝居で、ショックというか、かっこいいと当時思いましたね。

浅野:ありがとうございます。

権八:本当に芝居をしているのか、していないのか、よくわからないみたいな路線と言ったら失礼かもしれないけど、そういうジャンルを確立されたという印象がある。あれは、最初は自然とやってしまった感じなんですか?

浅野:とても意識していました。僕は15、16歳のときに映画『あいつ』のオーディションを受けたのですが、オーディションには劇団の子たちがいて、その子たちは控室に友達がいるわけです。僕は知り合いは全然いなかったんですけど。それで、劇団の子たちが話しているのを見てたんです。

「お前、元気かよ」「この間のオーディションどうだった?」みたいな話をしてて。そのときは普段の彼らなんですよ。で、その後オーディションルームに入って、「久しぶりに友達に会ったという設定の演技をやってください」と同じようなシチュエーションの台本を渡されるわけです。それなら、さっきと同じことをやればいいと思うんですけど、彼らは(芝居がかった声で)「おいっ! 元気かよっ!!!」と。

一同:

浅野:一体どうしちゃったんだ。あの頃のお前はどこにいってしまったんだと(笑)。僕はその頃地元の友達がパンクで過激な奴らばっかりで、いい加減なことじゃ許さねーぞという雰囲気の中にいたんですよ。俳優の仕事はチャラチャラ見えてしまうときがあるので、その中で俺は恥をかかないで済むにはどうすればいいんだろうと。劇団の子たちみたいな芝居はやりたくない。だったら、さっきの控室と同じことをやれればいい。それなら嘘じゃないし、いつもの自分でいる分には、突っ込まれても「いつも通りでしょ?」と言い訳できる。そういうことを必死に考えていたんですよ。

一同:へー!

浅野:ここに車で来るときに考えていたんですけど、僕は「役者の役」をやったほうがいいんじゃないかと思っていて。たとえば、映画のスタジオに行く僕がいる。でも、それまでは日常の僕がいていいわけですよね。現場について役をはじめるときに、「お前よぉー!」「元気かよぉー!」ってやったら大根役者の演技ができる。でも、映画だったらどっちも演技じゃないですか。これをやってみたいなと思って。

澤本:職業・役者の人の役をやると。それは面白いですね。

浅野:自然な演技と、ちゃんとお芝居で大げさなことをやっている人の演技をやる役者の役をやれば、違う演技ができる。

澤本:それ、本当に脚本とか考えてもいいですか?

浅野:ぜひ! 考えてみると、僕はラッキーだったと思います。あの頃ああいう友達が周りにいてくれて、親が色々な映画を見せてくれて。そこで自分でよく考えて、色々なことをやってみることができたので。

権八:僕は映画『鮫肌男と桃尻女』ですごいショックを受けて。なぜここでニヤニヤするんだろうとか。なんでもないシーンなのに、すごいリアリティがあって。あれは石井克人が監督でしたよね。石井監督はCMディレクターでもあって、僕は今でも石井さんと一緒にCMをつくったりするんですけど、あの映画のショックって大きいと思います。

澤本:大きいよね。

権八:松田翔太くんとか、ああいう若い俳優にもすごい影響を与えていると思う。鮫肌の話は結構現場でしてましたね。

浅野:本当ですか? うれしいですね。若い子たちは僕の映画を見たほうがいいですね。

一同:

浅野:「お前の歳にはコレやったんだ、俺は!」って言ってね。勉強してこいって(笑)。コストコ行ってこいみたいな感じで(笑)。

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