「ソーシャルテレビ」は、テレビのマーケティング価値を再浮上させるキーワードかもしれない

何百万人を一度に集められる装置は他にない

また全然、話が変わるのですが、私はいま『homeland』というハリウッドドラマにハマっています。日本のテレビの危機を憂えたことを書いておいて失礼きわまりないのですが、地上波のドラマは見ないで、いやとにかく地上波を何も見ないで毎日毎日少しずつdTVで見ています。もうホントに面白くて仕方ありません。だまされたと思って見てみてください。ハマります、必ず。

便利なことにウィキペディアにはこの『homeland』の情報が事細かに出ています。そのまま信じていいのかどうかわかりませんが、アメリカでも大人気で視聴者数はシーズン1の最終回で171万人に達したとあります。

あれ?171万人?それはちっとも多くない。『恋仲』はどうでしょう?9.8%の世帯視聴率。日本の世帯数を乱暴に5000万として計算すると、490万世帯が見た計算。各世帯で1人しか見なかったとしても490万人が見たことになる。

『homeland』はショウタイムというペイチャンネル、日本で言えばWOWOWみたいな放送形態なので、単純に比べてはいけません。『homeland』はいま私が見ているように、ショウタイムで最初に放送された後、アメリカ国内でもあらゆるチャンネルやサービス上で視聴され、さらに世界中で視聴されているので、全部合わせると何千万人もの人に視聴されているでしょう。だから171万人はその入口にすぎない。

でも一方で、490万人は大した数字です。490万人が同じドラマを見て泣いたり笑ったりしているとしたら、日本の地上波テレビはすごい装置です。同じことをネットで引き起こすことは現状ではほぼ無理でしょう。

逆にネット上で同時に490万人を集められたら、そこではいろんなことができそうな気がします。広告の仕組みだってあらゆる企画が成立しそう。スポンサー企業からすると、またとないチャンス、ってことになるでしょう。メディアも広告主も大喜びのはず。

テレビ番組は490万人だと「史上最低だよ」とけなされるのに、ネットだと490万人は大騒ぎ。そこには何かヒントがないでしょうか。ソーシャルテレビとは、そういう考え方なのだと思います。

番組を観ている490万人がいる。その多くは手にスマートフォンを持っている。ながら視聴は当たり前で、テレビとスマートフォンのどっちがファーストでどっちがセカンドかはこの際置いといて、セカンドスクリーン視聴ってやつをかなりの数の視聴者がやっている。

であれば490万人の1割でもひとつのスマホサイトに集められれば、49万人の同じ番組を視聴する人びと、つまり同じ嗜好を持った人びとが集まることになる。その価値たるや、すごいことのはずです。

いや、番組を観てる間は番組に集中してほしい、と言うのなら、終わったあとに集めればいいですよね。実際Twitterを観察していると、番組が終わった後に視聴者同士が「面白かったねー」などと盛り上がっている。終了後のほうが集めやすいのかもしれません。いままでだと、「次の番組があるのに、ネットに視聴者を奪われるじゃないか」と言われていた。でもセカンドスクリーンですから、テレビを消すわけではないので安心してください。

そんな視聴者をいまはテレビ局がほったらかしている。広告代理店は興味を持っていない。スポンサーも注目していない。でもそれをまとめれば、広告的に価値が出てくるかもしれません。

それがソーシャルテレビなのです。そこにはテレビというCM枠の提供装置が、つながりを求めあうソーシャル装置に変わる可能性がある。

テレビのピンチをチャンスに変える。それは、番組を面白くして視聴率を再び上げる、ということもあるでしょう。でももうひとつは、これまで見えてなかった価値を掘り起こそう、とも解釈できます。テレビってすごいんですよ。何十万人何百万人もの人を一度に集められる。そんな装置は他にありません。その莫大な人数の何分の一かを、ソーシャルテレビの考え方を駆使し、スマートフォンで受けとめる。これまでのソーシャルテレビアワードを受賞した番組企画はそれを実際にやってきた。手本にすべき事例はすでに四年分あります。

ぜひいまこそ、みんなで考えてみましょう。テレビがピンチのいまだからこそ、今までだと「それは慣例上できない」と言ってた人たちも「まあやってみてもいいかもなあ」と言ってくれるでしょう。ピンチとは、新しいことに挑むチャンス。これまでよりずっとやりやすいはずです。

ポイントは、垣根を越えること、ではないかと思います。ソーシャルテレビアワードでは今年初めて「広告賞」を設けて『NISSAN×リアル脱出ゲームTV』が受賞しました。その企画作業では、TBSテレビの制作スタッフと、TBWA/HAKUHODOのクリエイティブスタッフが一緒になって24時間ああでもないこうでもないとディスカッションしたそうです。テレビマンだの広告屋だのの分類はそこでは関係ない。垣根を越えた挑戦者たちが取っ組み合って新しい企画が生まれたのです。TBWAのスタッフの方が奇しくも言っていました。「いまクリエイティブ部と紹介されましたが、私はチャレンジ部のつもりです。」そんな意気込みが、これからのメディアと広告の関係の新しい標準をつくるのかもしれません。

広告賞受賞の皆さん。プレゼンターはアドタイでも連載している徳力基彦さんです。

さて、そういう垣根を越えた情報を、ふさわしい皆さんにお届けしたい、という思いで私はソーシャルテレビに関する勉強会を継続して開催しています。ご興味のある方は、こちらをご覧ください。

などと宣伝を書いてしまって編集部から叱られそうなので、今月はここまで。

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境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)

1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Border」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書『拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―』 株式会社エム・データ顧問研究員。

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