秋山さん、コピーはどうすれば上達しますか?(ゲスト:秋山晶さん)【前編】

コピーライターはコピーから離れて考える時間をもったほうがいい

中村:私が子どもの頃に見た秋山さんのコピー、キリンラガービール「人は、人を思う」はすごく深いところに入ってくるものですが、そういう言葉がどういう風に起草されて、提案されて、採用されていったのかというのが全く想像つきません。36歳の私にとって、コピーは広告の映像やデジタル、キャンペーンがある中のパーツ、あるいは全体を統合するスローガンだったりします。今の広告コミュニケーションとわりと違うので、たとえば商品の名前がそのまま入っているものだとわかりやすいのですが、そうではないものの場合、どういう風に決めていくのかなと。その思考の過程ってどうなっているんでしょうか。

秋山:思考の過程は表現できるものではないんですよね。とても複雑なものですから。強いて言えば、「発想を何からするか」ということですよね。たとえば、「人は、人を思う」で言うと、掲載時期やオンエアはいつかということを考えますよね。

中村:いつ発表するものかと。

秋山:お中元の季節や、真夏になりますよね。そういう風に考えていくと、取っ掛かりは“人間関係”じゃないかなと思うんですよ。帰省するとか、お世話になった人に差し上げるとか。そうすると自然に迷わず「人が、人を思う」というコピーが出てきますよね。

澤本:話が戻ってしまいますが、秋山さんには最初はコピーの先生がいて、その先生を通じて自分を磨いていったんですか? それとも最初から「書け」と言われて、全部自分で書いていったんですか。

秋山:向秀男さん(編集部注:1923~92年。日本を代表するアートディレクターの一人で、コピーも担当した。57~76年、ライトパブリシティに在籍)の書くものをずっと見ていましたね。ライトパブリシティに入ってからは、向さんのアシスタントをやりました。今の人は向秀男と言っても誰も知らないと思うけど、文章のクリエイティブディレクターでしたね。

澤本:秋山さんが人に教えたり、誰かを下につけて教育したということもあるんですか?

秋山:あまりないですね。コピーライターというのは自分で考えて、自分で結論を出すという仕事です。人はそれぞれ何に興味があるか、どういう感性があるかは違いますから、逆に大きなお世話だと思うんじゃないか。ですから人の書いたものは、許せる範囲なら全くいじらないほうがいいと思いますよ。

澤本:そういうお話を、若い方々は聞きたがっていると思います。若い人に「どうやったらコピーライターとして上達できますか?」と質問されることがあります。そのときに僕はよく、「優秀なコピーライターの仕事をよく見ることだよ」と言っています。100個コピーを書いたら、優秀なコピーライターに見てもらって、どれがいい・悪いと指摘をしてもらって、自分の中にその基準を蓄積していくのが一番いいと。秋山さんが「どうしたらいいコピーライターになれますか?」と質問されたら、何と言いますか?

秋山:コピーから離れて考える時間を持ったほうがいいということです。

澤本:コピーだけじゃなくてということですよね。

秋山:たとえば、飛行機に乗っているよりも列車に乗って窓の外をずっと見ているほうがコピーは書けるかもしれない。それから、苦手と思うような厚い本をとにかく1冊読んでみるとか。厚い本って、その厚さだけで敬遠するじゃないですか。その後にさらにもう1回読むと、自分の満足感というものがあると思う。そういうものがいいコピーの力になるんじゃないですか。

澤本:コピーを書こうと思って、コピーだけをずっと書くということではなくて。

秋山:それだと書けないですね。コピーは純粋な、単純なものじゃないんですよ。自然界のフォルムって、直線は全くないでしょう。自然界って非常に複雑なんですよ。それから単一の色はないですよね。赤い花と言っても、赤いというのはどういう色かと。コピーはそういうものじゃないかなと思っています。

澤本:それこそ信号じゃないということですね。

秋山:コピーそのものよりも、もっと色々な、その人の性格や、初めて海を見たときにどう感じたか、といったことがあるんじゃないですか。

中村:残念ながら、お時間が来てしまいました。秋山さん、今日はありがとうございました。番組への質問や感想などはsuguowa@tfm.co.jpまでドシドシ送ってください!

<END>

構成・文 廣田喜昭

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