- 花王 マーケティング開発部門 デジタルマーケティングセンター デジタルトレード室長 本間充氏
- KDDI コミュニケーション本部宣伝部長 矢野絹子氏
- スマイルズ 取締役副社長 松尾真継氏
- 三井住友カード ネットビジネス事業部長 佐々木丈也氏
- JAPAN CMO CLUB Founder 加藤 希尊氏
ゴールデンパスを解き明かす
JAPAN CMO CLUBの研究会も今回で8回目を数える。
2014年11月の発足以来、カスタマージャーニーに関する議論をメインテーマにしてきたが、日本の企業におけるカスタマージャーニーの重要性についての認識は高まっていると感じる。一方で企業が考えるカスタマージャーニーと、消費者が実際にたどるカスタマージャーニーにはギャップが生じているのも事実だ。
商品やサービスを選択する際の決定権は消費者側にあり、企業は消費者がどのように行動し、どんなタイミングで商品やサービスを選択しているのかを捉え、その瞬間に入り込んでいかなければならない。つまり、企業側が考える「あるべき」ジャーニーではなく、消費者の実際の行動に基づき、自社との接点や選択の瞬間にこそ、カスタマージャーニーのゴールデンパスを解き明かすヒントが隠されている。
今回の参加企業は花王、KDDI、スマイルズ、三井住友カードの4社。カスタマージャーニーの議論が発展し、お客さまの視点から見た企業の業態の進化、革新といった経営の根幹にかかわるテーマにも話が及んだ。
研究会ではまず参加各社に自社のカスタマージャーニーマップを描いてもらった。業種、業態の異なる企業のカスタマージャーニーマップを見る機会は少なく、各自それぞれのカスタマージャーニーについての解説を興味深く聞き、議論も活性化した。
トップバッターで発表したKDDI 矢野氏の考えるカスタマージャーニーは、利用者の携帯電話端末購入サイクルに合わせて描かれている。検討→来店(契約)→利用→評価という大きなサイクルが契約の更新ごとに繰り返されるため、長く利用してもらうためのコミュニケーションを展開。この大きなサイクルの各段階においても小さなカスタマージャーニーが存在する。機種や料金プランを選択し、実際に契約を締結するまでの、店頭での体験にもジャーニーを見ることができる。
この顧客対応する店舗が、実態としては直営店よりも代理店が多いことについて矢野氏は「自社で直接的なマネジメントができない領域だが、お客様との直の接点が少ない中で、店頭での体験がお客様に与える影響は大きい」と話した。
大きなジャーニーは、携帯電話端末の使用期間や年間契約の期間を考慮し、おおよそ2年のスパンで考えている。この期間の節目ごとにお客様にご案内を送るなど、なるべく長期間に渡りご利用いただけるよう取り組んでいる。
三井住友カードの佐々木氏は、このプロモーションを体験しており「更新のタイミングで乗り換えようかなと思うと案内が来る。ユーザ別のきめ細かいコミュニケーションができていると感じる」と、KDDIの施策が一定の効果をあげていることをうかがわせた。
松尾氏からは、iPhoneが全ての通信事業者に対応したことで差別化が難しくなっているのではという指摘があった。矢野氏も同意し、かつては利用料金の安さや独自サービスを訴求してきたコミュニケーションを、話題の「三太郎シリーズ」のテレビCMのようにブランド重視にシフトし「au自体を好きになってもらえるようなコミュニケーションを目指している」と話した。
また三井住友カードの佐々木氏は、消費者がカードを利用する場面で、財布にある複数のカードの中から、いかに自社のカードを想起してもらうかが重要になると話した。
カスタマージャーニーとしては、クレジットカードを持つことができる18歳から、シニア層までの長期的な関係構築のための数十年単位でジャーニーマップを描いている。その長いマップの中で、初めてカードをお持ちいただいたタイミング、初めてカードを利用していただいたタイミングで価値のある体験をしていただくことが重要。また、カードご利用していただく中で、不正使用からお客さまをお守りするため、一時的な利用制限をするようなマイナス体験の場面でも、タイムリーにコミュニケーションを図るといった対応によって顧客体験価値を向上させたいと話した。
佐々木氏はマップについて、「会社としてはまだマスマーケティングが中心になっているのが現状」だと話し、カスタマージャーニーを利用した顧客一人ひとりに向き合ったサービスができるようにする議論を始めたところだと解説した。
IoTなどの発達により、今後「カード」というものが必要なくなるのではないかという議論もあり、それに対して佐々木氏は、「我々は、決済という手段に対して利便性を感じてもらえるように、カード利用者だけではなく、カード決済を受ける事業者の両方に付加価値を提供してきたい」と話した。
スマイルズの松尾氏は「特にカスタマージャーニーのようなものはつくっていない。なので、カスタマージャーニーとは少し違うかもしれないが」という前置きをしつつ、自分自身が顧客として感じる「どうしてこうなってしまったのか」という問題意識をビジネス化し、それに共感する人を増やしていこうというスマイルズの手法を紹介した。
本間氏も日用消費財メーカーである花王の場合は、カスタマージャーニーは、そこまで必要とされていないのではないか、という話をし、同社のマーケティングでは「AIDMA」や「AISAS」モデルに基づき、Attentionの部分に予算を注力するような状態だと話した。
また本間氏からは、カスタマージャーニーを具体的にイメージする参考として、米国の大手小売りメーカーがつくった2020年の顧客の生活を想定したビデオが紹介された。店舗は一見倉庫のような大型量販店であり、本間氏曰く「そこにエクスペリエンスは感じない」というアメリカでは小売店でさえ、チーフ・エクスペリエンス・オフィサーという役職を置き、未来の顧客体験を想定している。
こうした事例を見せても、経営陣の意識が変わってこないと話し「世の中が急速に変わっているというスピード感をどうすれば社内で共有できるのか」と課題を口にした。
JAPAN CMO CLUB
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