コピーは「ぱっと見」で決まる!(ゲスト:秋山晶さん)【後編】

コピーは「ぱっと見」が何よりも大切

中村:秋山さんが若い頃は、今の若いコピーライターみたいに100本も200本もコピーを書いて、アートディレクターに相談するようなことをされていたんですか?

秋山:やってないですね。むしろ、今のほうがたくさん書いています。若いときは1つか2つしか書かなかった。「四十にして惑わず」と言うけど、あれは40歳を過ぎると迷うから逆説として格言があるのではないかと思う。そのくらい40歳になってから迷い出したんですよ。

中村:そうなんですか!?

秋山:どのコピーがいいかわからないんですよ。伝え方は同じだから、だいたい同じなんですが、コピーは結局「ぱっと見」なんですよ。「ぱっと見」がいいのは最初に書ける。あとは親切なコピーになっちゃう。助詞が入っているとか、“てにをは”が入っているとか。その“親切”が、コピーにとっては一番ネガティブなことなんですね。

澤本:コピーは「ぱっと見」だということを秋山さんが言うとすごい。

秋山:それに尽きますよ。

澤本:一般の人として見ていると、コピーって確かに「ぱっと見」ですよね。見たときに読みたいと思うか、読みたくないと思うか、それを読んだときにどう思うかだけだから「ぱっと見」ですよね。

秋山:いくつもコピーを書くと「ぱっと見」がなくなってくるんですよ。結局、最初のコピーを選ぶんですけど。

澤本:年齢を重ねてくると段々迷いますね。僕もすごく迷う。コンテを出して、プレゼンをしているときに、「あれ、このセリフじゃないほうがいいんじゃないかな」って思い出して、不安でしょうがなくなりますもんね。

秋山:30代のときはそんなことなかったんじゃない?

澤本:30代のときは強がっていましたね。

秋山:そこが大事なところなんだね。いつも強がってなきゃいけないものね。

権八:以前、ワトソン・クリックの山崎隆明さんに来ていただいたんですけど、山崎さんも本当にいつも辛そうにしてますよね(笑)。迷って、迷って・・・いい意味でね。ホットペッパーのCMで自分の声で吹き替えをするときも、どのセリフが正解かわからないから何百回もMAしたと。800テイクって言っていたよね。

秋山:そのCMは賞をもらったんじゃないですか?

権八:TCCのグランプリでしたね。実際のところ、スパッと出して、もうこれで終わりってタイプの人はいるんですかね? あまり僕のまわりでは・・・佐々木宏さんも往生際悪いし、僕も佐々木さんにいっつもすごいバカにされますもん、迷い過ぎって(笑)。

秋山:佐々木さんが一番往生際が悪い(笑)。

澤本:撮影が終わってからもまだ言ってる(笑)。

権八:秋山さんは60年近くコピーライターをされていて、キャリアが非常に長いじゃないですか。途中で違うことをやりたいと思ったことはありませんでしたか? たとえば澤本さんだったら映画を作られていたり。もっと言うと嫌だな、辞めちゃいたいとか。ま、辞めちゃいたいとかはないか(笑)。

秋山:澤本さんの映画、面白かったですよ。
 
澤本:ちゃんと見ててくれるんですよ。
 
秋山:僕の一番好きなシーンは、ホテルの部屋で2人が別々に寝ているのを、部屋のセットの上から俯瞰で撮っているところです。
 
権八:北川景子ちゃんと妻夫木聡くんが。
 
秋山:あれ、僕たちの時代にはマルチで撮ったんですよ。マルチというのは、画面を2つに割って。それが旧演出で、新演出になると演劇風になるから、やっぱり一発撮りで2つのベッドがあるんだという、そこはすごく感激しました。
 
澤本:秋山さん、こうやってすごく見てくれてるんですよ。ディテールを褒めてくださったり。
 
権八:言われてみればそうですね。たいていアメリカ映画でもマルチですね。僕もびっくりしました。
 
中村:そういうところをチェックされていたと。
 
権八:ご自身では、特にそういう違うことをやりたいというのはなかったですか?

秋山:僕はなかったですね。

中村:コピーライター一筋。

秋山:何度も「もうダメだ」と思いましたよ。でも、できちゃうと逆にすごく気持ちが高揚しますね。ダメだと思ってからできたほうが、すんなり行くよりも高揚します。

次ページ 「秋山さんのコピーは動いているように見える」へ続く

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